「あー、ないない。どう考えても私はないよ」
 メンバーの選抜に色んな含みがあるのだとしたら、会社は若手を起用するだろう。古株の私になんて出番はないはずだ。
「どうして自分でそんな風に決めつけちゃうんですか? まだわからないじゃないですか」
 響子がフォークを握り締めて、私に反論してきた。
「んー、私は結婚話がダメになった時に会社に迷惑かけてるしね」
 寿退社を申し出ておきながら、結婚が白紙に戻った途端人事部に頼み込んでなんとかそれを取り下げてもらった。
……なんとも苦い話だ。
「普通なら、仕方なく残してやった人間を抜擢なんてしないでしょ」
「そんなあ」と響子は眉尻を下げる。
「ねえ、そろそろ戻ろうよ。遅れたらまた鮫島主任に怒られるわよ」
 直属の上司のことを持ち出すと、響子は「うへぇ」と舌を出した。
「鮫島主任、どうして今日はずっと内勤してるんですかね。さっさと営業に出てくれたらいいのに」
 顔を歪めて心底嫌そうに呟く響子を見て、私は思わず吹き出してしまった。