上村は、まるで元からこの部屋の住人だったかのようにどっしりとソファに腰掛け、思いっきりくつろいでいる。
一人では広く感じるこの部屋も、背の高い上村がいると急に窮屈に感じるから不思議だ。
「それで、一体何しにいらしたんですか?」
 ソファに座る上村の前に立ち、腕を組んで彼を睨みつけた。
相変らずの飄々(ひょうひょう)とした態度に苛々していると、
「また他人行儀な。このうちは、客にお茶も出さないんですか?」
 そう言って、上村はふてぶてしく私に笑いかけた。
「……くっ! わかったわよ。コーヒーとお茶どちらがよろしいですか?」
自棄(やけ)になってキッチンへ向かうと、「あ、待って」と上村に呼び止められた。
「今度は何よ?」
 いきなり両手を合わせ、私に向かって拝むようなポーズをしてくる。
「先輩、やっぱりコーヒーはいいから何か食わせてくんない?」
「はあ? 上村、美奈子たちと飲み会だったんでしょ? ご飯食べてないの?」
 私がそう口にした途端、上村は何かを思い出したのか、思いっきり顔をしかめた。
「美奈子って、相良美奈子? あいつ会社でも仕事してなさそうだけど、ホントひどいよね。他の女たちも気の利かないバカばっかだし。飲み会の間中べったりくっつかれて、飯食うどころじゃなかった」
「なによそれ。じゃあどうしてあの子たちと飲みに行ったの?」
 上村はただでさえもてるんだから、そんなところに行ったら女の子たちに囲まれるに決まっている。それがわからない上村じゃないだろうに。
「俺がいないと、女の子たち集まんないでしょ。そんなの営業の連中の為に決まってるじゃん。少しでもあいつらに恩売っておかなきゃね」
「……呆れた。あんたってホントいい性格してる」
「お褒めに預かり光栄ですよ。そんなことより先輩、早く何か食わせて。頼むから」
「嫌よ。どうして私が」
「そう、この鍵返さなくていいんだ」
 そう言うと、上村はあの日のように私の眼前に鍵をぶら下げる。
奪い返そうと手を伸ばすと簡単にかわされた。
「返して欲しいんじゃないの?」
「……わかったわよ」
 仕方なく私は、冷蔵庫を開けて食事の用意を始めた。