「まあ、飲みましょう。はいカンパイ」
何故か上機嫌の上村は、気後れしている私になど全く構わず、勝手にワイングラスを合わせた。
丁寧に磨かれ、テーブル上のキャンドルの灯りを反射してきらめくグラスが、キン――と余韻の残る涼やかな音を立てる。
あの後、上村はすぐにタクシーを捕まえた。
煌々とライトが照らすアーケード街を抜け、入り組んだ路地に入る。
雑居ビルが立ち並ぶ一角にその店はあった。
レンガ調のタイルが施された壁面を濃い緑の蔦が覆うその店は、ドアの横に『空-KU-』と書いてある看板が掛けてあるだけで、パッと見何の店なのかわからなかった。
木製の重いドアを開けると、地下へと続く細く急な階段が現れる。その階段を下りたところに、この店はあった。
控えめな照明に低いボリュームでジャズが流れる店内は、まるで隠れ家のような雰囲気だった。
「上村、よくこんなお店知ってるわね」
この辺りは繁華街からは少し離れていて、私も来たことのないエリアだ。
お店自体も店員のサービスに気取ったところはなくリラックスできるのに、店内のセンスのいいインテリアや、高価な花を使ったアレンジが特別な気分にさせてくれる。素直にいい店だと思った。
……ただし、これが恋人とのデートであれば。
まずいところを見られた私をこんな店に連れてくるなんて、何か裏があるはずだわ。
上村が考えてることを見極めないと。やっかいなことに巻き込まれたくはない。
「まあ、こういう店も知ってなきゃ、隠れてうまく遊ぶなんてできませんからね」
それはやっぱり女性関係のことなのだろうか。
会社の駐車場で崩れ落ちた先ほどの女性の姿が頭に浮かんだ。
「飲まないんですか、先輩」
「飲むけど……」
ここで酔っ払ったりしたら上村の思う壺だ。
涼しい顔でチーズをつまむ上村を盗み見ながら、私は、苦手なワインを舌先で舐めた。
テーブルの上には、見た目もカラフルで美味しそうなアンティパストが並んでいる。
いつもなら喜んで口にするのに、動揺しているせいか箸が進まない。
「あの……本当に大丈夫かな、さっきの人。こんな時間だし、一人にしたら危ないんじゃない?」
「ああ、ほっといていいです。もう俺には関係ないし」
「関係ないって……付き合ってるんじゃないの? 彼女、泣いてたじゃない」
上村はグラスを傾けて一気にワインを飲み干すと、ボトルを手に取り再びグラスにワインを注いだ。
何故か上機嫌の上村は、気後れしている私になど全く構わず、勝手にワイングラスを合わせた。
丁寧に磨かれ、テーブル上のキャンドルの灯りを反射してきらめくグラスが、キン――と余韻の残る涼やかな音を立てる。
あの後、上村はすぐにタクシーを捕まえた。
煌々とライトが照らすアーケード街を抜け、入り組んだ路地に入る。
雑居ビルが立ち並ぶ一角にその店はあった。
レンガ調のタイルが施された壁面を濃い緑の蔦が覆うその店は、ドアの横に『空-KU-』と書いてある看板が掛けてあるだけで、パッと見何の店なのかわからなかった。
木製の重いドアを開けると、地下へと続く細く急な階段が現れる。その階段を下りたところに、この店はあった。
控えめな照明に低いボリュームでジャズが流れる店内は、まるで隠れ家のような雰囲気だった。
「上村、よくこんなお店知ってるわね」
この辺りは繁華街からは少し離れていて、私も来たことのないエリアだ。
お店自体も店員のサービスに気取ったところはなくリラックスできるのに、店内のセンスのいいインテリアや、高価な花を使ったアレンジが特別な気分にさせてくれる。素直にいい店だと思った。
……ただし、これが恋人とのデートであれば。
まずいところを見られた私をこんな店に連れてくるなんて、何か裏があるはずだわ。
上村が考えてることを見極めないと。やっかいなことに巻き込まれたくはない。
「まあ、こういう店も知ってなきゃ、隠れてうまく遊ぶなんてできませんからね」
それはやっぱり女性関係のことなのだろうか。
会社の駐車場で崩れ落ちた先ほどの女性の姿が頭に浮かんだ。
「飲まないんですか、先輩」
「飲むけど……」
ここで酔っ払ったりしたら上村の思う壺だ。
涼しい顔でチーズをつまむ上村を盗み見ながら、私は、苦手なワインを舌先で舐めた。
テーブルの上には、見た目もカラフルで美味しそうなアンティパストが並んでいる。
いつもなら喜んで口にするのに、動揺しているせいか箸が進まない。
「あの……本当に大丈夫かな、さっきの人。こんな時間だし、一人にしたら危ないんじゃない?」
「ああ、ほっといていいです。もう俺には関係ないし」
「関係ないって……付き合ってるんじゃないの? 彼女、泣いてたじゃない」
上村はグラスを傾けて一気にワインを飲み干すと、ボトルを手に取り再びグラスにワインを注いだ。