自分の本心を見破られたような気がして、私は誤魔化すようにウーロン茶を飲み干した。
「それにしても、婚約までしていてそんなにあっさり引き下がるなんて、先輩はやっぱりお人好しですね。……自分だって苦しんだでしょうに」
 上村が話しの矛先を変えたことに安堵する。
「確かに苦しかったけれど、でも私はそんなに善人じゃないわ。彼に対して腹も立ったし、相手の女の子のことを恨みもした。それでも、子どものことをないがしろには出来なかった。だって子どもはもう存在しているのよ。その命を脅かすようなこと、私には言えないわ」
 そう、問題は初めから、私と彼と彼女、三人のものではなかった。
子どもの存在がある以上、私は諦めるしかない。
――私は最初から、蚊帳の外だったのだ。
「一人で、よく乗り切りましたね」
「……そうね。おかげでずいぶん厚かましくなったわ」
 新入社員の頃から知っている後輩に慰められるのがなんだか気恥ずかしくて、私はわざと茶化して答えた。
「寿退社を撤回するなんて前代未聞だって散々言われたわ。でも、ちょうど私の結婚がダメになった頃、母が病気だってわかったの。お金も必要になるし、社内でどんなに心無い言葉を掛けられても、皆に嫌われても、私はここを辞めるわけにはいかなかった」
「病気……ですか」
 私が母のことを口にした途端、上村は口元に手を当て黙り込んでしまった。どうしたんだろう? 明らかに、様子がおかしい。
「……上村?」
「あ、すみません」
「どうかした?」
「いや、なんでもないです」
 そう言うと、上村はグラスを一気に呷った。
「ちょっと、大丈夫?」
 上村は勝負の後も、そのまま度数の強いタンカレーを飲んでいた。
「大丈夫ですよ。そろそろ出ましょうか」
「う……ん」
 上村は手の甲で口を拭うと、ゆっくりと席を立った。
 その仕草が、話の続きを拒んでいる証のように見えて、私は何だか納得いかないまま、上村の後に続いた。