「……失礼を承知で訊きますけど、それは本当に鳴沢さんの子どもだったんですか?」
 それまで、ただ黙って私の話を聞いていた上村が、そんなことを聞いてきた。
 ここまで一気に話して喉が渇いた私は、今度は自分でウーロン茶を頼んだ。
「それは間違いないみたい。よくよく聞いたらその時は彼も結構酔っ払ってたらしくて、身に覚えなくはないって」
「なんですかそれ」
「ホントよねぇ」
 普段から落ち着いた表情を崩さない上村が眉間に皺を寄せるのを見て、思わず私は吹き出してしまった。
私につられたのか、上村の表情もすぐに緩んだ。
 ……なんだか、おかしな感覚だった。
当時はあんなに悩んで苦しんだのに、今の私はあの時のことを上村と笑って話せている。
上村がこのまま笑い話にしてくれるかもしれない。
そんな淡い期待が胸を過る。
「……なんというか、鳴沢さんも案外詰めが甘いんですね」
 会社ではきっちりと仕事をこなし結果も残している鳴沢の不手際が、上村には意外に思えたのだろう。
「きっと相手は、初めからそのつもりだったのよね。でも彼は、自分が嵌められたってことに全く気がつかないし。私と彼女の間で煮え切らない彼のことが段々情けなく思えてきちゃって、最後はもうどうでもよくなっちゃった」
 それにお腹の子どもに罪はない。
そのうち生まれてくる子どものことを考えると、私には迷っている暇なんてなかった。
「だから私の方から婚約破棄を申し出たの。その時の彼の反応がまた凄くて」
「まさか、引き止められたんですか?」
「違うわ。別れを告げた途端、彼ったらへなへなと座り込んでこう言ったの。『安心した』って。今思えば、出来ちゃった子どもへの責任と結婚を約束した私への罪悪感でずっと板ばさみになっていたのよね」
「でもそれって、本当に罪悪感だけなのかな……」
「え?」
「本当は好きな女を手放したくなかったんじゃないですか。だから、先輩と浮気相手の間で迷った」
「……そうかしら。でも、私がいたのに彼はその子を受け入れた。私への気持ちなんて、その程度のものだったんだってその時は思ったわ」
「先輩はそうやって、折り合いをつけてきたんですか? 今まで、一人で」