驚いたことに、彼は私が入れるお茶が社内で一番美味しいと委員会のたびに褒めてくれた。
そんなことを言ってくれたのは、今まで外食部の野々村部長くらいだったから、私は彼の言葉が素直に嬉しかった。
 ――告白は、彼からだった。
社内でも目立っていた彼に近寄ってくるのは下心見え見えの女の子たちばかりで、それまで私のようにじっくり仕事のことなんかを話せる女友達なんていなかったらしい。
一緒にいる時間が増えるにつれ、彼はぽろりぽろりと私に本音をこぼすようになったし、私は私で、他の誰でもなく真っ先に彼に仕事の悩みを相談するくらい、彼のことを信頼するようになっていた。
 そうして、いつの間にか信頼は恋心に形を変えていて。
 ……だから私は、喜んで彼の告白を受け入れた。
 つき合いは、うまくいっていたと思う。
会社では張り詰めた顔をしている彼も、私といる時は心から寛いでいるように見えた。
 結婚のことだって、先に口にしたのは彼だ。
彼となら、穏やかで温かい家庭を築いていけるかもしれない。漠然とだけれど、私も二人の未来を想像するようになっていた。
 でも……。
そろそろお互いの親に挨拶に行こうか、そう話していた矢先、彼の様子がおかしいことに気がついた。
仕事で疲れている時とはまた違って、ふとした時にひどく沈んだ表情をしている。
『最近どうしたの? 疲れてるみたい。仕事が大変なの?』
『うん……実は、さ』
『……え?』
『だから……子供が出来た、って言うんだよ……』
 彼の口から聞かされたのは、衝撃の事実だった。
一度きりと割り切って一晩過ごした相手を妊娠させてしまったというのだ。
 私には何でも話せると言っていたのに、この人は私にずっと隠し事をしていた。
そのことが虚しくて、私には彼を問い詰める気力もなかった。
今まで二人で築いてきたと思っていたものは、一体何だったんだろう?
『浮気って、だってそんな……』
『……幼馴染みなんだよ、その相手。俺のことを追って、この会社にも入ったらしいんだ。俺、結婚決まってるから、って言ったんだけど言うこと聞かなくて。それなら諦めるかわりに一度だけ、なんて言って泣きつくから、つい……』