「それで、本当のところはどうなんですか?」
「え?」
「だって先輩って、仕事の時は厳しいけれど、実際はそういう強かなタイプでもないでしょう」
「……何を根拠に」
 今まで会社や社内の飲み会以外で顔を合わせたことなんてないのに、どうして上村に私の性格までわかるっていうの?
「俺でよければ、話を聞きますよ。いつまでも一人で抱えてるの、しんどくないですか?」
「……別に、平気よ。今までだってずっと一人でやってきたんだし」
「先輩も案外強情だなあ」
 なかなか口を割らない私に腹を立てるどころか、上村の表情は楽しそうだ。
ひょっとして、何か企んでいるのだろうか?
 上村の腹の内を探ろうとジッと目を凝らす。そんな私を見て上村はため息交じりに笑みをこぼすと、口を開いた。
「わかりました。それならば、俺と勝負しませんか?」
「は? 勝負?」
「そうです。このタンカレー、ストレートで早く飲みきった方が勝ち。先輩が勝てばここは全て俺が持ちます。でも俺が勝ったら、先輩は真実を話す。どうです? まあ、先輩に勝ち目なんてないと思いますけど」
 自信あり気に笑う上村にメラメラと対抗心が芽生える。
「……いいわ。受けて立つ」
 私だって、飲めない方じゃない。勝算は十分にある。
「いいんですね? 俺、絶対負けませんよ」
「私だって、あんたなんかに負ける気がしないわ」
 私と上村は、カウンターに新たに置かれた飾り気のないショットグラスに手を伸ばした。

「……ムリ! もうこれ以上飲めない」
 グラスにお酒の半分を残したまま、私はカウンターに突っ伏した。
 初めて飲むタンカレーは、はじめの一口からかなりきつかった。
それでもまだ、一杯目は顔には出さずにいられた。すぐに負けを認めるなんて、悔しすぎるから。
でも、三杯目に口をつけたところで、体中に酔いが回っていくのを感じた。
一口、二口と飲み込むたびにお腹の底から熱の塊が這い上がってくるようで、私はとうとう、それ以上口に運ぶのを諦めた。
「俺の勝ちですね。約束は守ってもらいますよ」
 上村は三杯目のグラスを空にしても平然としている。
「あんたのだけ本当は水だったんじゃないの?」
「まさか」
 私は上村が手にしていたグラスを奪い取り、自分の鼻先へ近づけた。確かに私が飲んだものと同じ、タンカレーのフルーティな香りがした。