「やっと寝たね、美雨」

 寝室のベッドの上、家族三人で川の字を作る。美雨は右手で私、左手で達哉の手をきつく握り、安心したのかそのまま眠ってしまった。

「直人さん、悔しそうだったね」

「あいつもなんだかんだ言って、美雨ラブだからな」

 帰り際、美雨をあやす達哉を見て、直人さんは「兄貴もああ見えて、ちゃんと父親やってんだな」と言っていた。

 そのときの表情が、なんだかとても感慨深げで。

 お義母さんの死をきっかけに、一時期は家族がバラバラになってしまったけれど、長い時間をかけて関係を修復して。

 そして今は、美雨を中心に繋がっている。
  
 美雨の手のひらから伝わるぬくもりが、じんわりと私の身体の奥深くへと広がっていく。


「なに」

「え?」

「香奈、笑ってるから」

「ん? ……美雨の手はあたたかいなあって思って」

 空いた方の手を伸ばし、達哉の手に触れると、今はもうすっかり慣れてしまったあたたかさが、こちら側の手のひらからも伝わってくる。

「きっとあなたに似たのね」

「そうかもな」

 そう言って、達哉は私の手を引き寄せると、そっと指に口づけた。


 君のこのあたたかな手を、決して離さないように。
 この幸せを壊さないように。 


「愛してる」


 私は、溢れ出した想いを言葉に乗せて、愛しいあなたに口づけた。



fin