「香奈?」

「……達哉、雨だわ」

 そう口にした途端、大きな雨粒がバラバラと空から落ちて来た。

「うわ。なんだよ、いきなり。帰るぞ、香奈」

「うん」

 このままじゃ、二人ともずぶ濡れになってしまう。地面を叩く雨脚がこれ以上強くなる前にと、私と達哉は祭りの会場から抜け出した。


「浴衣、大丈夫?」

 家に帰ってすぐバスルームに駆け込んだ達哉が、タオルを手渡してくれた。

「うん、そんなに濡れてないから大丈夫。明日自分で洗うわ」

 受け取ったタオルを押し付けて、浴衣の水を払う。達哉が部屋のカーテンを開けたと同時に、真っ暗な夜空に閃光が走った。

「雨ひどくなってきた。こうなる前に帰り着いてよかったな」

「うん。それにしても……美雨の言ってたこと、当たったわ」

「また雨?」

「そう」

 生まれた日のせいなのか、はたまた名前のせいなのか。美雨は雨の気配にとても敏感だ。

「美雨のこと心配?」

 開けたままのカーテンの向こうに、時折り空を切り裂く稲光が見える。

「そうだけど……大丈夫よね、お義父さんも直人さんもいるんだし」

「ああ」

 直人さんの名前を出した途端、また面白くなさそうに眉根を寄せる達哉に笑いが漏れる。

「いいかげん、私たちも少しは子離れするべきなのかもしれないね」

「まだ早いだろ」

 そんなこと、二人ともまだまだできそうにないって、本当はわかってる。

 素っ気ないふりをしていても、達哉はたぶん私以上に美雨のことを心配しているのだ。
 

「私も着替えてくるね」

 寝室に戻り、浴衣を脱ぐ前にまとめていた髪を下ろそうと姿見に顔を寄せた。

「……いたっ」

 地肌を引き攣るような痛みがして姿見を覗くと、髪飾りが髪の毛に引っかかっていた。

「あー、なかなか取れないな……」

 顔を斜めに傾け、姿見を見ながら髪飾りを外そうとするけれど、なかなか上手くいかない。

 一人で奮闘していると、シャワーを終えた達哉が缶ビールを片手に寝室に入って来た。

「あーあ、何やってんの香奈。髪の毛からまってるよ。今解いてやるからこっちにおいで」

 手招きをされてベッドに腰を下ろすと、隣に座った達哉が髪を解いてくれた。

「できた」

「ありがとう。全然外れなくて焦っ……」

 耳元に吐息を感じ、後ろを振り向くと、達哉が髪に口づけていた。

「……達哉?」

「浴衣、まだ脱いでなかったんだ」

 髪から耳へとキスが滑り落ち、首筋に届く。達哉は片手で器用に帯を緩め、浴衣の襟元をはだけた。

「こうして先輩に触れるの、久しぶりだ」

「また先輩って……」

 達哉は一瞬悪戯っぽく微笑んだかと思うと、いとも簡単に私をベッドに押し倒した。真上から揺らめく瞳に見つめられ、身体が急速に熱を帯びる。

「香奈」

 唇と唇が触れ合う、そう思ったときだった。