「香奈、見て」
マンションから続く道を抜け、ようやく国道に出ると、開けた視界の向こうに、夜空に大輪を咲かせる花火が見えた。
「達哉、早く!」
歓声を上げる人々の間を、達哉の手を引き早足で歩く。人波を避けつつなんとか神社の鳥居まで辿り着くと、参道の両脇にはたくさんの屋台が立ち並び、大勢の人でごった返していた。
連続して打ち上がる花火と、歓声を上げる人々で会場はかなり騒がしい。私は隣にいる達哉に聞こえるよう、いつもより声を張り上げた。
「この人出じゃ、会場で美雨とお義父さんに会うなんて無理かもね」
「そうだな」
「一緒に花火、見たかったんだけど」
美雨の浴衣姿を達哉にも見せてあげたかった。そう思って私は肩を落としたけれど、達哉はもう夜空に浮かぶ花火に夢中になっていた。
「そろそろ終わりかなあ」
花火大会もクライマックスを迎えたのだろうか、黄、青、橙、緑、紫と小ぶりでカラフルな花火が絶え間なく空を彩り、人々の歓声が大きくなる。
火花が全て散ってしまうと、会場に一瞬静寂が戻る。そして、それを突き破るように、一際大きな光の玉が夜空を駆け上った。
「わあ……っ」
夜空いっぱいに、黄色の大輪が花開く。大きな音がお腹の底に響いて、私と達哉は顔を見合わせた。
「綺麗……」
「だな」
「けど……」
「どうした?」
「美雨、怖がってないかな」
雨の日に産まれた美雨だけど、吹きすさぶ風や耳をつんざく雷の音は苦手で、私や達哉が傍にいないと泣いてしまう。花火の音を怖がっていないかと、ふと心配になった。
「親父と……たぶん直人もついてるし、大丈夫だろ」
義父同様、達哉の弟の直人さんも美雨のことを溺愛している。そして美雨も、直人さんのことが大好きだ。……しかも、義父に対してとはちょっと違う意味で。
直人さんといるときの美雨を見ていると、どんなに小さくても女なんだなあと思ってしまう。
「今頃美雨、この間のプロポーズの返事を催促してるかもね」
先日、義母の法事で直人さんに会ったとき、美雨は彼に熱烈なプロポーズをしていた。
『なんだよ、あれ。娘は普通「大きくなったらパパと結婚する」って言うもんだろ』
そう言って直人さんに嫉妬心剥き出しだった達哉のことを思い出して、つい吹き出してしまう。
「……っくそ、やっぱり今から迎えに行くか?」
「達哉、眉間のしわ凄いよ」
大きな爆発音と共に、今夜を締めくくる朱に銀色の花弁が、夜空を照らし散っていった。
『本日の花火大会は全て終了致しました――』
場内にアナウンスが流れると、それまで止まっていた人の波が再び動き出した。
「行こうか」
達哉がまた、私の手を取って歩き出す。
「屋台見て行く?」
「そうね。美雨に綿菓子……」
そう言いかけたとき、鼻先に何かが当たる感触がして足を止めた。
マンションから続く道を抜け、ようやく国道に出ると、開けた視界の向こうに、夜空に大輪を咲かせる花火が見えた。
「達哉、早く!」
歓声を上げる人々の間を、達哉の手を引き早足で歩く。人波を避けつつなんとか神社の鳥居まで辿り着くと、参道の両脇にはたくさんの屋台が立ち並び、大勢の人でごった返していた。
連続して打ち上がる花火と、歓声を上げる人々で会場はかなり騒がしい。私は隣にいる達哉に聞こえるよう、いつもより声を張り上げた。
「この人出じゃ、会場で美雨とお義父さんに会うなんて無理かもね」
「そうだな」
「一緒に花火、見たかったんだけど」
美雨の浴衣姿を達哉にも見せてあげたかった。そう思って私は肩を落としたけれど、達哉はもう夜空に浮かぶ花火に夢中になっていた。
「そろそろ終わりかなあ」
花火大会もクライマックスを迎えたのだろうか、黄、青、橙、緑、紫と小ぶりでカラフルな花火が絶え間なく空を彩り、人々の歓声が大きくなる。
火花が全て散ってしまうと、会場に一瞬静寂が戻る。そして、それを突き破るように、一際大きな光の玉が夜空を駆け上った。
「わあ……っ」
夜空いっぱいに、黄色の大輪が花開く。大きな音がお腹の底に響いて、私と達哉は顔を見合わせた。
「綺麗……」
「だな」
「けど……」
「どうした?」
「美雨、怖がってないかな」
雨の日に産まれた美雨だけど、吹きすさぶ風や耳をつんざく雷の音は苦手で、私や達哉が傍にいないと泣いてしまう。花火の音を怖がっていないかと、ふと心配になった。
「親父と……たぶん直人もついてるし、大丈夫だろ」
義父同様、達哉の弟の直人さんも美雨のことを溺愛している。そして美雨も、直人さんのことが大好きだ。……しかも、義父に対してとはちょっと違う意味で。
直人さんといるときの美雨を見ていると、どんなに小さくても女なんだなあと思ってしまう。
「今頃美雨、この間のプロポーズの返事を催促してるかもね」
先日、義母の法事で直人さんに会ったとき、美雨は彼に熱烈なプロポーズをしていた。
『なんだよ、あれ。娘は普通「大きくなったらパパと結婚する」って言うもんだろ』
そう言って直人さんに嫉妬心剥き出しだった達哉のことを思い出して、つい吹き出してしまう。
「……っくそ、やっぱり今から迎えに行くか?」
「達哉、眉間のしわ凄いよ」
大きな爆発音と共に、今夜を締めくくる朱に銀色の花弁が、夜空を照らし散っていった。
『本日の花火大会は全て終了致しました――』
場内にアナウンスが流れると、それまで止まっていた人の波が再び動き出した。
「行こうか」
達哉がまた、私の手を取って歩き出す。
「屋台見て行く?」
「そうね。美雨に綿菓子……」
そう言いかけたとき、鼻先に何かが当たる感触がして足を止めた。