「……どうぞ」
「どうも」
 茶托に乗せた湯呑を手渡すと、上村は私が淹れたお茶を無言で啜った。
私がお茶を用意する間も、上村はずっと腕を組んだまま。しかめっ面で壁の一点を睨みつけていた。
緊迫した空気に耐えかねて、私はおずおずと口を開く。
「あの、上村何か勘違いしてるみたいだけど……」
「この期に及んで俺の子じゃないとか言うつもり? そんなわけないでしょう」
 先手を打つつもりが、あっさり打ち返されて撃沈した。
でも私はここで、怯むわけにはいかないんだ。
「黙ってて悪かったとは思うけど、私子どもを堕ろすつもりはないから。あの日だって私から誘ったんだし、これからのこともちゃんと考えてる。私が勝手に決めたことだから、上村は気にすることな……」
「あんた、バカか」
「なっ!?」
「そもそも、どうして妊娠したことを俺に言わないんだよ。違う男から聞かされる俺の身にもなってみてくれよ」
「違う男って……、ひょっとして岩井田さん?」
「そうだよ」
 確かに岩井田さんに妊娠のことは伝えたけど、父親のことまでは話していない。それなのに、どうして上村がそうだとわかったんだろう。
 思っていたことが顔に出ていたんだろう。上村ははーっと大きくため息を吐くと、額に片手を当てぼそりと呟いた。
「相良だよ」
「……は?」
「岩井田のやつ、相良から聞いたらしいよ。どうしてかはわからないけど、相良が子どもの父親は岩井田だと思いこんでて、文句言いに行ったらしい」
「……美奈子が?」
「『どうしてそんな無責任なことできるんだ』って、オアシス部に怒鳴り込んできたらしいよ。あいつ。すげー剣幕だったって」
 まさか美奈子が、私のためにそんなことまでしてくれたなんて。
「やだ……嬉しい」
「ったく、嬉しいじゃないだろ。相良とか岩井田とか、話す順番がおかしいだろ。どうして俺が最後に知らされなきゃいけないんだよ」
「それは……本当にごめんなさい」
 私は素直に上村に頭を下げた。
上村は当事者なのに、私が彼のことをはじめから蚊帳の外にしてしまった。今更ながら申し訳なく思えてくる。
「それに、俺は怒ってんだ。俺に黙って会社も辞めて、引っ越しまでして。てっきり岩井田の会社に行くのかと思ったら、実は妊娠してて。……しかも一人で産んで育てるってどういうことだよ」
「それはっ……」
 上村に詰め寄られ、私は俯いてスカートを握り締めた。