『私は、大丈夫』

 子供の頃から、つらいことがあるたびに鏡の中の自分にそう言い聞かせてきた。

 言葉には力があって、声に出せば本当になるから。


 浅い眠りの夜、暗闇の中目を凝らすと、窓辺に一人佇み月を見上げる母がいた。

 月明かりの下、母は何度も何度も繰り返していた。


『大丈夫、私は大丈夫』

 自分だけが温かい布団の中で、私はその光景をこの目に焼き付けた。

 今だけではなく、この先もずっと。決して忘れないように。


 ――母のように強く、私はなりたい……