耳元からスマホを外し、画面を見つめる。
スマホから、看護師のわめき声がかすかに漏れてくる。
――今日はクリスマスイブで、仕事が終わったら病院へ行って母さんと一緒にケーキを食べるんだ。
そういえば、ケーキの入った袋、私どうしたっけ?――
「先輩! 電話貸して」
その時、横から突然現れた上村が、私の手の中からスマホを奪い取った。素早く耳に当て、何かを話しはじめる。
私は、まるで他人事のようにその様子をぼんやりと眺めていた。
「はい、すぐに向かわせます。ありがとうございます」
体が軸を失ったように、ぐらぐらと揺れていた。
上村の声も回りの喧騒も、全て反響したように頭の中で鳴り響く。
――耳鳴りがする。
上村に何度か両肩を揺さぶられて、ようやく目の焦点が合った。覗き込む上村の瞳の中に、怯えた女の顔が映っている。
「先輩、病院から電話です。俺が連れて行きますから、早く」
「――病院?」
「どうしたんですか。しっかりしてください! 早く行かないと間に合わなくなる!!」
上村のその一言が、私を一気に現実に引き戻した。
「……行かなきゃ!!」
そのままオアシス部を飛び出そうとした私の腕を、上村が掴んだ。
「だから、俺も一緒に行くって!」
前回、母が倒れた時のことを思い出したのだろう。上村が私を心配そうに覗きこんだ。
「……一人で大丈夫だから」
私は、上村の腕をそっと外すと、しっかりと上村の目を見て微笑んだ。
「心配してくれてありがとう。私は大丈夫」
「先輩……」
「行くね」
私は、ちょうど出勤してきた部長に事情を告げると、今度こそオアシス部を飛び出した。
出勤時間で混んでいるエレベーターを避け、階段を一気に駆け下りる。
玄関ホールに下り、まだ出勤してきたばかりの社員たちの間を走り抜けた。
早く、母さんのもとへ行かなきゃ。そのことばかりが、頭の中を巡っている。
私は会社を出ると、ちょうど来たタクシーに飛び乗った。
スマホから、看護師のわめき声がかすかに漏れてくる。
――今日はクリスマスイブで、仕事が終わったら病院へ行って母さんと一緒にケーキを食べるんだ。
そういえば、ケーキの入った袋、私どうしたっけ?――
「先輩! 電話貸して」
その時、横から突然現れた上村が、私の手の中からスマホを奪い取った。素早く耳に当て、何かを話しはじめる。
私は、まるで他人事のようにその様子をぼんやりと眺めていた。
「はい、すぐに向かわせます。ありがとうございます」
体が軸を失ったように、ぐらぐらと揺れていた。
上村の声も回りの喧騒も、全て反響したように頭の中で鳴り響く。
――耳鳴りがする。
上村に何度か両肩を揺さぶられて、ようやく目の焦点が合った。覗き込む上村の瞳の中に、怯えた女の顔が映っている。
「先輩、病院から電話です。俺が連れて行きますから、早く」
「――病院?」
「どうしたんですか。しっかりしてください! 早く行かないと間に合わなくなる!!」
上村のその一言が、私を一気に現実に引き戻した。
「……行かなきゃ!!」
そのままオアシス部を飛び出そうとした私の腕を、上村が掴んだ。
「だから、俺も一緒に行くって!」
前回、母が倒れた時のことを思い出したのだろう。上村が私を心配そうに覗きこんだ。
「……一人で大丈夫だから」
私は、上村の腕をそっと外すと、しっかりと上村の目を見て微笑んだ。
「心配してくれてありがとう。私は大丈夫」
「先輩……」
「行くね」
私は、ちょうど出勤してきた部長に事情を告げると、今度こそオアシス部を飛び出した。
出勤時間で混んでいるエレベーターを避け、階段を一気に駆け下りる。
玄関ホールに下り、まだ出勤してきたばかりの社員たちの間を走り抜けた。
早く、母さんのもとへ行かなきゃ。そのことばかりが、頭の中を巡っている。
私は会社を出ると、ちょうど来たタクシーに飛び乗った。