「三谷さん、その袋なんですかっ!?」
「やだ、響子!? びっくりした!!」
 クリスマスイブの朝、通勤に使っているバスを降りたところで響子に捕まった。そういう響子こそ、今日はやけに大きな紙袋を抱えている。
「響子こそ、その袋の中身はなあに?」
「白々しいですよ。知ってるくせに!」
 一人では迷ってプレゼントを決められなかったという響子に、再びショッピングに誘われたのは先週末のこと。
意中の彼から趣味はウインタースポーツだと聞き出した響子は、クリスマスにスノーボード用のウェアをプレゼントすると決めていた。
二人して彼に似合うものを探し求め、街中のスポーツ洋品店を散々歩き回った。
「それでそのプレゼント、三谷さんは誰にあげるんですか?」
 響子が目をキラキラさせて訊いてくる。私は苦笑いをこぼした。
「残念でした、プレゼントじゃないわ。これは母と食べるケーキなの」
 昨日の夜、一人で作ったクリスマスケーキ。母の好きなフルーツをふんだんに使ってある。
「えー、朝からケーキ買っちゃったんですか? 早く買わないと売り切れちゃうような有名店のケーキとか?」
「ん、まあね……」
 響子にも母のことは話していない。もしもという時のために、館山部長にだけは話したが、下手に聞かせて心配をかけるのが嫌で、結局会社の誰にも言ってなかった。
母の病状は依然芳しくない。ほとんどものを口にしなくなっているし、私が訪ねても寝ていることの方が多い。
覚悟だけはしていてくださいと、十二月に入ってすぐの検査の後、担当の医師からも言われていた。
「うまくいくといいわね」
「うー、今からドキドキしちゃう。今日一日仕事にならないかも!」
「また美奈子に怒られるわよ」
「あー、それはヤダ」
 二人小さくはしゃぎながら、会社のロビーを歩いた。
「おはようございます」
 受付の女の子たちと朝の挨拶を交わす。カウンターに置かれたポインセチアが、真っ赤な葉を茂らせている。
 そのポインセチアの鉢の向こうに、来客用のソファーに腰掛けている麻倉さんを見つけた。
いつもより、心なしか華やかに見える。響子が目ざとく彼女の存在に気がついた。
「あの人ですよね、麻倉さん。上村くんとつきあっているっていう……」
「……そうらしいね」
 響子の手前、私は無関心を装った。