でも私にその言葉をくれたのは、今私の目の前で夢を語るこの人だけだ。
「小さい会社だから、三谷さんにも色々な業務をやってもらうつもりでいます。僕らについて、お客さんのところや現場に行ってもらうこともあるかもしれない」
岩井田さんと話していると、世界が開けていくような気持ちになる。
彼が持って来てくれたのは、今までとは違う新しい仕事、新しい世界。とても魅力的だ。
「この数ヶ月君と一緒に仕事してみて、やはり僕はあなたを欲しいと思った。……君みたいな人が、僕には必要なんだ」
「岩井田さん……」
 ……まるで、愛の言葉みたいだ。熱心な彼の言葉が、私の胸を打つ。
切羽詰まった言葉は、それだけ私を必要としてくれている証拠だ。岩井田さんの言葉の一つひとつが、心に、体に、じんわりと染み込んでいく。
「嬉しいです、本当に。ずっと代わりのいない人間になりたかった。でも、もう少しだけ待ってもらえませんか。もう少し、自分の気持ちに踏ん切りつくまで」
 彼の話を受けるために、私にはきちんと諦めなくてはならないものがある。
「……わかりました。君のためなら待ちますよ、いくらでも。でも、それだけじゃなくて……」
「……岩井田さん?」
 私を見つめる岩井田さんの瞳が、違う色を纏う。
「三谷さん、本当にわかってる? 僕がずっと君に言ってきたことの意味が」
「えっ……」
 突然岩井田さんに腕を引かれ、二人の距離がなくなった。
 気が付いたときには、岩井田さんの腕の中にいた。差していた傘が地面に転がり、真っ白な雪が覆いを無くした二人の髪に肩に降り積もっていく。
 岩井田さんの腕の中でくぐもった声を聞きながら、そのさまをジッと見ていた。
「ずっと傍で見て来たから、君が誰を想っているのかはわかってるつもりだよ」
「岩井田さん……」
 岩井田さんは、気がついていたのだ。ずっとひた隠しにしてきた、私の本当の気持ちを。
「僕は……やつとは違う。決して君を一人にしない。仕事のときも、そうじゃないときも、僕の傍にいて欲しい」
「岩井田さん、でも私は――」
「三谷さん」
 岩井田さんは、答えようとする私の口を片手で塞いだ。
「返事は今じゃなくていい。ゆっくり、考えてみてくれないかな」
「でも……」
「すぐに結論を出すんじゃなくて、ちゃんと考えてみて欲しいんだ。ゆっくりと、一人で。いいね?」
 岩井田さんの言葉に、私はただ頷くことしかできなかった。
降りしきる雪の中、七色に煌くツリーだけが、私たちを見守っていた。