頭上から低い声が響いて振り向くと、すぐ後ろに上村が立っていた。
「ああ上村くん、お久しぶり」
白々しい美奈子の声に唇を噛む。美奈子からは、上村のことは見えていたはず。さっきの発言も、わざとやったんだろうか。美奈子の底意地の悪さは、変わっていないようだ。
「おお相良、久しぶり。お話中悪いんですが、邪魔なのでどいていただけますか三谷先輩」
「……ごめんなさい」
上村には、今の私たちの会話が聞こえていなかったのだろうか。何一つ突っ込むことなく、上村は素知らぬ顔で私の横を通り過ぎた。
廊下の角を曲がり、上村の姿が見えなくなったところで、美奈子がまた口を開いた。
「上村くん、出入りのコンサルタントの人と付き合ってるって本当なんですか? すっごい噂になってるんですけど」
上村と麻倉さんのことが、もうそんなに広まっているのか。ひょっとしたら、オアシス部の女の子が漏らしたのかもしれない。
上村を狙っていると公言していたわりに美奈子の表情は淡々としていて、単純な好奇心から知りたがっているように感じた。
「……さあ、どうなんだろうね。私は知らないわ」
「本当に?」
美奈子が私の顔をジッと覗きこむ。何かを確かめるような美奈子の視線にたじろいでしまう。
「三谷さんと上村くんって、結構仲良かったでしょう?」
「え、なんで?」
私と上村が、オフィス内で仕事以外の話をすることなんてなかったはずだ。いつも上村が私にちょっかいをかけてくるのも、給湯室とか、他に誰もいない場所ばかりだったし、二人で話しているところを誰かに見られた覚えもない。
「まあ、なんとなくですけど。三谷さんが知らないなら別にいいです。資料の件、ありがとうございました。じゃ」
そう言って、あっさりと美奈子は去って行く。スタスタと廊下を歩いて行く美奈子を半ば放心して見送った。何なんだろう、あれ。
自分のデスクに引き返そうとして、あることを思い出した。
そういえば、上村はどこに行ったのだろう? ホワイトボードの上村の欄に、外出の文字はない。
ちょうど部長との話を終え、自席に戻る途中だった上村の補佐の子を捕まえた。
「ごめん、上村今どこにいるか知ってる?」
「上村さんなら経理に行ってます。この間の出張の領収書を出しに行かなきゃって言ってたから」
「そう……ありがとう」
お礼を言ってすぐ、上村を追いかけた。それだけの用なら、そろそろ帰って来る頃かもしれない。
先ほど上村が消えた角を曲がり、人気のない階段を駆け下りる。二階と三階の間の踊り場で、階段を上ってくる上村を見つけた。
「ああ上村くん、お久しぶり」
白々しい美奈子の声に唇を噛む。美奈子からは、上村のことは見えていたはず。さっきの発言も、わざとやったんだろうか。美奈子の底意地の悪さは、変わっていないようだ。
「おお相良、久しぶり。お話中悪いんですが、邪魔なのでどいていただけますか三谷先輩」
「……ごめんなさい」
上村には、今の私たちの会話が聞こえていなかったのだろうか。何一つ突っ込むことなく、上村は素知らぬ顔で私の横を通り過ぎた。
廊下の角を曲がり、上村の姿が見えなくなったところで、美奈子がまた口を開いた。
「上村くん、出入りのコンサルタントの人と付き合ってるって本当なんですか? すっごい噂になってるんですけど」
上村と麻倉さんのことが、もうそんなに広まっているのか。ひょっとしたら、オアシス部の女の子が漏らしたのかもしれない。
上村を狙っていると公言していたわりに美奈子の表情は淡々としていて、単純な好奇心から知りたがっているように感じた。
「……さあ、どうなんだろうね。私は知らないわ」
「本当に?」
美奈子が私の顔をジッと覗きこむ。何かを確かめるような美奈子の視線にたじろいでしまう。
「三谷さんと上村くんって、結構仲良かったでしょう?」
「え、なんで?」
私と上村が、オフィス内で仕事以外の話をすることなんてなかったはずだ。いつも上村が私にちょっかいをかけてくるのも、給湯室とか、他に誰もいない場所ばかりだったし、二人で話しているところを誰かに見られた覚えもない。
「まあ、なんとなくですけど。三谷さんが知らないなら別にいいです。資料の件、ありがとうございました。じゃ」
そう言って、あっさりと美奈子は去って行く。スタスタと廊下を歩いて行く美奈子を半ば放心して見送った。何なんだろう、あれ。
自分のデスクに引き返そうとして、あることを思い出した。
そういえば、上村はどこに行ったのだろう? ホワイトボードの上村の欄に、外出の文字はない。
ちょうど部長との話を終え、自席に戻る途中だった上村の補佐の子を捕まえた。
「ごめん、上村今どこにいるか知ってる?」
「上村さんなら経理に行ってます。この間の出張の領収書を出しに行かなきゃって言ってたから」
「そう……ありがとう」
お礼を言ってすぐ、上村を追いかけた。それだけの用なら、そろそろ帰って来る頃かもしれない。
先ほど上村が消えた角を曲がり、人気のない階段を駆け下りる。二階と三階の間の踊り場で、階段を上ってくる上村を見つけた。