「もう。しっかりして、響子」
「しっかりしてますぅ……」
 脱力した人間とは、どうしてこうも重いのか。
 一次会を終えた店の前で、私は左手に二人分の荷物を持ち、右手で響子を支え解散の声がかかるのを待っていた。
「三谷さん、中山さん大丈夫ですか?」
 心配して話しかけてくれたのは、新入社員の岸くんだった。学生時代を大阪で過ごしたという彼には、少し関西の訛りがある。
「大丈夫よ、すぐにタクシー捕まえるから」
「俺も一緒に送って行きましょうか?」
「ううん、平気。響子っていつもこうだから慣れてるし。岸くんは今日の主役の一人なんだから、ちゃんと二次会へ行って」
「……わかりました。何かあった時は電話くださいね」
「うん、ありがとう」
「それじゃあ、失礼します」
 そう言って頭を下げる岸くんに、両手が塞がっている私は、手を振るかわりに頷いてみせた。 
 響子が一次会で潰れてしまうのは毎度のことだし、私たちのことなんて、いつも誰も気にも止めない。それなのに、気がついて声をかけてくれるなんて。
研修初日、緊張して私に質問もできなかった人と同じ人物だとは思えない。
 たった二週間の研修だったけれど、ちゃんと周囲に気を配ることができるようになっている。岸くんの成長ぶりを目の当たりにして、私は嬉しくなった。
「二次会、カラオケに行く人はこっちでーす」
 店の前で張り切って大声を上げている美奈子の姿が見える。その隣には上村の姿。美奈子はちゃっかり上村の腕に腕を絡ませている。
ここまでくると、美奈子のあざとさも可愛く思えてくるから不思議だ。
(まあ、せいぜい頑張んなさいよ)
 心の中でそっと美奈子にエールを送り、二次会へ向かう一団を見送る。
「さあ、私たちは帰るわよ」
 肩からずれ落ちそうになっていた鞄を持ち直し、私はふうっと息を吐いて気合を入れ直した。

 気を抜けば座り込みそうになる響子の体を引き上げながら、アーケード街を歩く。
大通りまで出れば、きっとすぐにタクシーが捕まるはず。私は心の中で自分を励ましながら、アーケード街の出口を目指して歩いた。
「うー、重い」
 このままでは、持たないかもしれない。少しベンチで休憩しようか。でも早くタクシーに乗って楽をしたい。
迷いながらも、響子を支えふらふらと歩いていると、ふいに体から響子の重さが消えた。
「中山、相変わらず酒弱いな」
 後ろを振り向くと、背の高い上村が私を見下ろしていた。