季節は駆け足で通り過ぎ、毎日通勤時にはコートが欠かせなくなった。
11月も半ばを過ぎたばかりだというのに、街はすでに赤とグリーンのクリスマスカラーで溢れている。
 私は、表面上はこれまで通り平穏な日々を過ごしていた。
仕事と母、それが今の私の生活の全てだ。でも、一つだけ変わったことがある。
あれから、ふとした時に考えるようになっていた。
私は、これからどうしたい?
母のことを理由に、このままこうしていることが本当に正解なの?
母の存在を言い訳にして、そこそこ安定している今の生活を手放したくないだけじゃないの?
そんな自問自答を、日々繰り返している。
 そして何よりも、あの夏の終わりの日、母に言われたあの言葉が常に頭の中にある。
『心の赴くままに』。母はそう私に言ったけれど。
私が望む未来は、一体どこにあるのだろう――。
 
「三谷さん、外食事業部の相良さんがいらしてますよ」
「相良さんが? ……ありがとう」
 PCのディスプレイから顔を上げ、教えてくれた後輩に礼を言う。顔を上げると、オアシス部の入り口に所在無さげに佇む美奈子の姿が見えた。
一体何の用だろう。思い当たることがなくて、不思議に思う。
「美奈子、どうしたのいきなり。外食部で何かあった?」
「三谷さん、お疲れさまです。お忙しい時にすみません」
 びっくりして、私は瞬きを繰り返した。まさか、美奈子の口からこんな気遣いの言葉を聞く日が来るとは。
「この資料のことで質問あって。今お時間大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だけど、美奈子……」
「何ですか?」
 さっさと質問を終わらせて仕事を片付けたいとでも思っているのだろうか。美奈子は一瞬うるさそうに眉をしかめた。
「……いえ。何だか美奈子、変わったなと思って」
「そうですか?」
「ずいぶん熱心じゃない。外食部でもみんなの中心に立って頑張ってるって聞いてるわよ」
「他に外食部回せるような人いませんからね。仕方なくです」
 ニコリともせずそう言う美奈子に、私はたくましさすら覚えてしまう。
私の説明にも、美奈子は熱心にメモを取っていた。私が外食部にいた頃は、どんなに注意してもメモなんて取らなかったくせに、物凄い変化だ。
「ひょっとしてこの前も、何か質問しに来たの?」
 美奈子の様子を見て急にピンと来た。それで、あの時私を探していたのだろうか。
「ああ、三谷さんが岩井田さんに押し倒されてた時?」
「ちょ、ちょっと美奈子声が大きい……」
「あのさ」