「失礼します、三谷さん。向こうからお姿が見えたものだから」
 私たちがメインを食べ終える頃、このレストランの二代目シェフの比良さんがテーブルに姿を見せた。
久しぶりに顔を合わせた比良さんは、相変らずラガーマンのような立派な体格で、顔には人の良い笑顔を浮かべている。
比良さんのことまでは聞いてなかったのか、岩井田さんはシェフにしては意外性のある外見を持つ比良さんを前に、目をまん丸にしていた。
「比良さん、今日もとてもおいしかったです。ありがとうございました」
「喜んでいただけたなら良かった。えーと、こちらは……」
「あ、彼は私と同じオアシスタウン部の岩井田です」
「はじめまして、岩井田です。担当の上村から勧められて来たんですけど正解でした。オアシスタウンの方でもよろしくお願いします」
「そうなんですか。いや、嬉しいな!」
 比良さんはトレードマークの立派な眉を下げ、笑顔を作った。
「そうだ! 実は今、2号店用のデザートの試作品をいくつか作ってまして。よかったらこの後食べていかれませんか?」
「えっ、いいんですか?」
 私より先に、岩井田さんの方が食いついた。
岩井田さん、ひょっとしてお酒より甘いもの方が好きな人なんだろうか。
「もちろんですよ。すぐにお持ちしますね」
「新作のデザート食べさせてくれるって。やったね、三谷さん!」
「岩井田さん、甘いものお好きなんですね」
「はい、そりゃあもう」
 比良シェフがテーブルを去るとすぐ、試作品のデザートが運ばれてきた。どのデザートもフルーツがふんだんに使われていて、カラフルで可愛らしい。
「このスイーツをあのシェフが? ……いやあ、人は見かけによらないね」
「味も素晴らしいんですよ! 私もいただきます」
 私も岩井田さんも、テーブルの上のデザートに無我夢中でに手を伸ばした。
それにしても岩井田さん、本当に甘いものに目がないんだな。会社の女の子たちはこのこと知っているんだろうか。
「本当だ、どれもおいしいなあ。……あのシェフ、凄い人なんだね」
「岩井田さん、このお店のこと気に入られたみたいですね」
 『リストランテHira』は、あの上村が必死になって契約を勝取ったレストランなのだ。なんだか私まで、嬉しさがこみ上げてくる。
「はい、かなり。僕も、常連になりそうだ。……それはそうと、三谷さんはここのシェフと顔見知りなんですね」
 岩井田さんの問いに、一瞬言葉が詰まる。一気にあの日のことまで思い出してしまった。
「ええ、実は以前上村に連れてきてもらったことがあって」
「ああなるほど、上村くんにね。……あれ、噂をすれば――」
 そう言って岩井田さんはお店の入り口の方に目を向けた。私も、岩井田さんの視線を追った。