「てゆーかさあ、三谷(みたに)さんって何なの?」
 嘲笑を滲ませた棘のある言葉が、私に突き刺さった。
 月曜朝の、会社の給湯室。この後の展開が、容易に浮かぶ。
週の始まりで、高まっていた私の気分は、一気に萎えた。
「いい年してさぁ、いつまでここに居座る気?」
 ズケズケと痛いところを突いてくるのは、多分入社三年目の相良(さがら)美奈子(みなこ)だろう。
「まああの見た目じゃ、相手にする人なんていないだろうけどね!」
「ちょっ、美奈子ひっどー!」
 口ではそう言いながらも、美奈子の毒舌に取り巻きの二人は笑い声を上げる。
朝の給湯室は、陰口と噂話のオンパレードだ。

 ……なんとなく煙たい人っている。
彼女たちからしたら、多分私がそれ。

 とある地方に本社を置く総合商社、桜庭(さくらば)物産株式会社。巨大な本社ビルの五階にある外食事業部が、今のところ私の居場所だ。
 結婚しても仕事を続ける女性が増えているとはいうけれど、令和の時代になっても、結婚や出産を機に退社を決意する女性社員も案外多い。
 美奈子たちは、入社退社の入れ替わりが激しい中、この年になっても結婚の予定もなく、いつまでもここに居座っている何かと口うるさい私のことが面白くないんだろう。
 彼女たちの陰口や、まるで私への当てつけのような職務怠慢にいちいち目くじらを立てても仕方がない。
 ここで過ごした数年間で、「これくらいのこと」と流せるくらいには、私も強くなった。
 ……それでも。

「もう朝礼始まるわよ」
 給湯室の入り口に立ち、そう言い放つ。瞬間、その場の空気が凍りついた。
「無駄口叩いている暇なんて、ないと思うけど」
 わざとヒールの音を響かせて、キッチンにもたれたまま私を睨みつける美奈子に近づいた。
野々村(ののむら)部長にお茶を出したいんだけど」
「……媚び売って、やだぁ」
 小声で漏らしたのは、美奈子の取り巻きだ。
 部長はお茶の好みにうるさく、私以外の人が入れたお茶はなかなか口にしようとしない。今どき珍しく奥さんも亭主関白を許しているようで、部長自らお茶を入れることももちろんない。
 「この時代に朝から上司のお茶出しなんて」と言われることもあるけれど、お茶一杯で朝から部長の機嫌を損ねずにすむのなら、私にはこれくらいの労力どうってことない。
「邪魔だから、どいてくれる?」
 嫌味には耳を貸さず、尚も動く気配のない美奈子に圧をかける。
「……すみません」
意外にも、美奈子はあっさりと体をどけた。