「新田、何か知らない?」
数日前と同じように掃除終えると玄関でたまたま新田の姿を見掛けたので声を掛けた。
内容はもちろん、梨花の事だった。
「知ってることは、知ってるけど…」
口ごもった様子を見せた。
「けど?」
「私の口からは言えない」
目を伏せて新田はそう言った。
その時、携帯の着信音が鳴り響いた。
見ると、僕のスマホだった。
ディスプレイには『山下梨花』と示されていた。
慌てて通話ボタンをおした。
「もしもし」
「亮一くん…」
か細い梨花の声が聞こえた。
明らかにいつもとは違う。
「今日、どうしたの?何かあった?」
「…亮一くん、ごめんね」
電話の向こうから鼻をすする音が聞こえる。
「どうした?」
「…サヨナラしよう」
それは、予想もしない一言だった。
「え?」
「別れよう」
あまりに大きな言葉で、受けとめきれなかった。
周りが真っ暗になって、何も聞こえない。
ぼうっとして電話を耳にしたまま、なんとなく足を前に動かしていくと、そこには梨花がいた。
玄関の階段の隅に隠れるようにして。
「梨花」
電話ではなく、すぐそばで聞こえた事に驚いたのか梨花が目を見開いて、こっちを向いた。
その目は真っ赤になっていた。
「どうして別れるなんて言うの?…僕の事嫌いにもなったの?」
「…そうだよ、嫌いになっちゃった。亮一くんの事。出会わなきゃよかった」
違うよ、その一言を期待して言った言葉だったのに、それは結果的に自分で自分を陥れてしまった。
「どうして嫌いになったの?教えて、直すよ」
焦って声のボリュームが大きくなってしまう。
「理由は…」
そう言った瞬間、わっ!と梨花が足を踏み外して階段から落ちそうになりそれを支えようとした俺も階段から落ちてしまった。