「だけどよお、そういうのは、通常大手の銀行しか入り込まないんだろ。いくらその大口投資家がすごくても、これまで大きな事業投資の実績が無いアーバンはよく入り込めたな。都丸が相当裏で苦労したんじゃねえか……」

「そうなんだ。そんなに苦労したら普通は見返りを求めるよな。でも、都丸は副社長どころか支店長にもなっていない」

ユースケは少し考え込んでから口を開いた。

「……ある人に言われたんだけど、都丸は西脇社長の親戚の内装工事の会社がヘマをやったとかで、現場に呼ばれたんだよな」

「そうだな」

「金融の営業マンが急に呼ばれて工事現場に行ったって何もできないんじゃないかって」

「む!」

「だから、ちょっとくらい外したって問題ないんじゃないかって……」

「そういえばそうだ!ということは、都丸は一旦現場から離れて殺害することもできるって事だ!」哲也は興奮して机をたたいた。

「都丸のアリバイって、ショッピングセンターの担当者に会っていたかどうか聞いたんだよな」

「そうだ」

「都丸が誰とも一緒にいなかった時間帯がないかどうか調べてくれないか」

「俺もそれを考えていたところだ。ほー誰だ、その素晴らしい気づきを助言してくれた優秀な人は!」

「え……それは……。え……と……」何と答えてよいか分からずユースケは一瞬口ごもった。

「ま、誰かとか細かい事はさて置き……。それよりもだ…。疑問がまだあるんだ」

「死んだ場所の事だな?」

「そうなんだ。何で会社の事務所の下の階で死んでいたのか。しかも外傷も無い……。殺害するならどうやって殺害したのか、ということだ」

「それよそれ。だから心臓発作ということで、警察では病気で片付けられようとしているんだよな。うーん、やっぱり持病なのか?困ったな……降り出しに戻ったか?それに、現段階では、都丸が社長に恨みを持っていたかもしれない、という事だけだからな。あまりこのことにとらわれすぎてもいかんし…」

哲也はブツブツ言いながら部屋の中を歩き回っていたが、突然携帯電話が鳴り響いた。

あわてて哲也が出ると「すまん、別件で本署から呼び出し」と言い残し、部屋を出て行った。

急に部屋が静まり返った。
エルモが先に家に帰ってしまった散歩の後、エルモを家で見かけることはなかった。

ユースケが散歩を拒否して和子に任せていることも顔を合わせていない原因ではあるものの、エルモの方も避けているのか、哲也の前には姿を現さなかった。

紅茶の湯気がまだゆらゆらと立っているカップを見ながらユースケはため息をついた。

「あいつどこへ行ったんだ……」

ユースケはいつの間にかエルモを探している自分に、頭を掻いた。