「なるほど。つまり、僕達はあくまで玉藻前を捕まえに来た。だから、逃げずに立ち向かうって事ですね?」
「そういう事だ」
あれから、茨木にはどうにか説明しておよそ10分程度で理解してもらえたようだ。
ふっ……ちなみに俺の説明最高記録は1時間だぜ。全然理解してくれなくて半泣きになりながら茨木に説明してたのを今でも鮮明に覚えてる。
ただ単純に俺の語彙力がない訳では無い。こいつの理解力が壊滅的なのだ。

俺達はこれ以上特に隠れも逃げもせずに待ち構えているとカタッカタッという下駄の足音が聞こえ、玉藻前のシルエットが見えてきた。
来た……っ。
俺達は集中力を高め、妖力をめいいっぱい上げる。
相手の迷いの無い足取りから見るともう既に俺達の居場所は把握済みって感じだよな。

「あれれ? 逃げなくていいの〜?」
「おう。危うくお前に流されるとこだったぜ」
今更ながらこいつの知能の高さに少しだけ恐怖を覚え、冷や汗が頬を伝った。
「どういうこと?」
「俺達はこの院内から出られれば勝ちなんだよな? つまり」
「つまり、ここから出られないから勝ち目はないってことですか!」
「うん。違うから口を挟むな茨木」
丁度いいところで口を挟まれなんとも言えなくなってしまいもどかしい。
俺は切り替えるようにゴホンっと1度咳払いをして言った。

「俺が言いたいのはつまり、俺達が逃げようが俺達がこいつに殺されようが、こいつには微塵もデメリットはねぇんだよ」
玉藻前は図星だったのか眉をひそめ、茨木は「おぉ!」と感嘆の声を上げている。
茨木さんや。秀才キャラはどこいった? 確かに、お前は部下としては優秀のくせにそこまで頭良くねぇが、キャラ保てや。
俺が心の中でツッコミを入れていると、玉藻前は顔を顰めたまま言ってきた。
「でも、だからといって君達はどうすることが出来るの?」
「お前を地獄の旅へお連れすることが出来る」
俺は腰についた刀の柄を握り、いつでも攻撃出来る体制に構えた。
茨木も俺と同じように腰についた刀の柄を握った。

「ふふっ……面白い。日々、人間やら妖やらを食って力をつけていった僕に真っ向勝負を挑もうだなんて片腹痛い。でも、君達なら潰しがいがありそう」
中二病……じゃなくて、玉藻前は舌なめずりをして完全に妖狐の姿へと化けた。
普段は狐の耳に尾が1本だが、本来は狐の耳に尾が9本。そして、瞳が猫のように縦長になり、爛々としている。
ほぉ……本気モードってか。じゃあ、俺も本気出さねぇとな。

俺も負けじと刀を抜き俺の妖術である炎を刀に纏わせた。

こいつには鬼の恐ろしさをじっくりとわからせてやらねぇと。