「はぁ……はぁ……はぁ……」
まだ20パーセントくらいしか力出して走ってねぇのに息が上がる。最近煙管の吸いすぎと酒の飲みすぎでだらけてるから自分でもわかるくらい体力が落ちている。

「10! 9! 8! 7! 6……」

そんな大声のカウントダウンが院内に響いてる。きっとゼロになったら玉藻前が俺達を捕まえに、いや、殺しにくる。
こんなスリル満点の鬼ごっこなんて生まれて初めてだ。


「僕達相手に10秒も逃げる時間をくれるなんて優しいですね」
楽しそうに目を輝かせながら言ってくる茨木。
普段真面目な茨木だからこそこういうお遊びはあまりしたことないのだろう。

「俺もそんな風に楽しみてぇよ」
俺が横目で茨木をみて言うと茨木はキョトンとした表情を浮かべ小首を傾げた。
おい。その純粋無垢な瞳やめろ。なんも言えなくなる。

「あ! ちょっと待て」
俺は不意に立ち止まり、茨木も数歩先で止まってくれた。
「このタンポポ……綺麗だな」
そっと、地面に生えていたタンポポに触れ懐の中に入れといた。

「何やってるのですか? 早くしないと玉藻前が来ちゃいますよ」
「わぁった。今行く」
そう言って俺は茨木の後を追った。

「いーちっ! ぜろっ! さぁ、探しに行くから待っててね?」
ワイワイしていたら数え終わってしまっていて院内全体に玉藻前の声が響く。
あいつ、どんだけ声でけぇんだよ。
それに、ある程度の所まで走ってきたけど……不安しかない。
あいつの事だ、おおかた色んなところに狐火を忍ばせてそれをたどってくるのだろう。
どうしたものか……

「これからどうしますか?」
俺が考えていると、茨木が俺に聞いてきた。
「俺に作戦がある」
「作戦?」
「あぁ。俺達は鬼だ。だから、俺達がこのゲームの鬼になってやんだよ!」
俺がそう言うと茨木はニッコリ頬笑みまた走っていった。
こいつ、ぜってぇ今心ん中で何言ってんだこいつとか思っただろ! すぐわかるわ!