獄火鬼





立て付けの悪いドアをこじ開け中に入る。
中はカビ臭く、全てがボロボロだった。
ソファも骨組みが見えてるし、受付は蜘蛛の巣が張っていてもう随分使われてないことがわかる。
綺麗好きの茨木は般若のような顔して辺りを見渡してるから精神的に既に相当ダメージを食らってんだろうな。
「おい。早く片付けるぞ」
「そうですね。早く帰りたいですし」
俺達が足を進めた。

その途端ーー。

ーーカチャ。

鍵がロックする音が聞こえ、茨木と同時に出入口の扉の方を向いた。
い、今鍵しまった音したよな?
一抹の不安がよぎり、俺はおもむろに扉に近づいて引いたり押したりした。
が、扉はビクともしない。
う、嘘だろ……閉じ込められた……?
茨木も真っ青な顔になって手から草のツルをにょろにょろと出し、扉に攻撃した。
それでも、扉はビクともしない。
なにこれ!? 大きなカブかよ!
それでも扉は開きませんってか!

別に俺達はビビってる訳では無い。ただ、俺の場合は出入口を確保しないとサボる時にサボれないから。
だって、こん中でサボってて不意に亡者に襲われたらキャーってなるじゃん? 怪我したら死にはしないけど痛いじゃん?
それと、茨木がここから出たい理由はたぶん普通に不潔なのが嫌なだけだろう。
茨木は窓とかもくまなく調べているが謎のバリアがはられてるらしく技が全て跳ね返されている。

「茨木、無駄な体力を使うな」
「……は、はい」
俺の言葉で正気に戻ったのか茨木は技を出すのをやめ落ち着いた。
さて、と。
俺達を閉じこめた命知らずの奴らはどーこだ?

「ーーあんれぇ? 人間かと思ったら鬼がかかっちゃった?」

背後から声がして後ろを振り向くと受付のテーブルのところに白髪を靡かせた金色の目を光らせてる男が座っていた。
頭には獣の耳が2つ顔をのぞかせていて背後には大きな尻尾が見える。
あいつは……あー……なるほど。そりゃ、俺達が呼ばれるわけだな。
ったく、閻魔も早く言えよ。
茨木も自分達が任務に駆り出された理由がわかったらしく、真剣な顔つきに変わっている。

この白髪男の名前は玉藻前。
かつては俺達と肩を並べるくらい強かった妖怪だ。だけど、そんな玉藻前がこんな小癪な真似して人間たちをおびき寄せてたのか……笑えるな。
俺ははっと鼻で笑い、挑発気味に言葉を吐いた。
「お前も落ちたもんだな! こうやってやらねぇと人間を食べれねぇのかよ!」
俺の挑発に玉藻前は動じず、むしろ頬笑みを浮かべて流した。
こいつ……スルースキルを身につけてやがる……

「村での悪さがバレて閻魔に捕まった君達に言われたくないね」
「「グハッ!」」
酒呑童子、茨木童子、共に百のダメージ。
それ言われたらなんも言い返せねぇじゃねぇか! HP0だよ! 泣くぞ!
俺と茨木は元々は悪い鬼だった。でも、閻魔率いる獄卒の大群に捕まって更生させられた。そして、今に至る。
力で物を言わせる俺達とは対照的に玉藻前は知能で人間を喰らい、閻魔達を惑わせていた。
だから、いつもは見つけられない玉藻前を見つけてチャンスとでも思ったんだろうな。

茨木は壁に手をつけながらフラフラと体制を整えると、震える指を玉藻前に向け声を張った。
「それだったら、貴方はニートじゃないですか! やーい! ニートニート! いい歳してニートの中二病!」
「グハッ!」
玉藻前に百のダメージ。
玉藻前は胸を抑え前のめりになった。
あ、自覚はあったんだな。

茨木は「やってやりましたよ!」とでも言わんばかりのドヤ顔をこちらに向けてくる。
俺も「よくやった」との意味を込めて親指を立てた。

「ふ……ふふっ……よくも僕をコケにしてくれたな……」
「だーかーら、そういう所が中二病くせぇんだよ」
「中二病言うな!」
完全に取り乱している玉藻前は目を爛々とさせている。
こいつのクールキャラ3分で終わったな。

「もう許さない……今から、お前らを制裁してやる」
いや、されるのはお前だからな。
と言いたかったが、先に進まなそうだからぐっと飲み込んだ。
茨木も同様だったらしくコクッとわかりやすく唾を飲み込んだ。

「だけどな、ただ制裁をするのはつまらない。今から、僕とゲームをしよう」
「ゲームですか?」
「そう。君達は鬼だから鬼ごっこでもしないか?」
すっかり調子を戻した玉藻前はクールキャラに戻って提案してきた。
いや、鬼だから鬼ごっこ好きとは限らねぇぞ? 少なくとも俺は嫌いだ。
最近体力無くなってきたから、さっき走ったので結構疲れた。

「いいですね。鬼ごっこなら酒呑が得意なので」
「おい。勝手に決めつけんな。俺は嫌だ」
「じゃあ、決まりだね」
「はい!」
「お前らは難聴なのか? 難聴だな。こんな近くの俺の声聞こえねぇなんて難聴に決まってるよな」
俺が必死に訴えるも2人に睨まれて口をキュッと閉じた。
ねぇ、神様、俺には人権はないのですか? ……え? 鬼だからない? じゃあ、革命起こして鬼権作っていいですか?

「それじゃあ、僕が鬼で10秒数えるからその間に逃げてね。もし、捕まったら君達は僕の血となり肉となってもらうから」

わぁ……典型的な中二病だぁ。ここまで来るとかっこよく見えてくるよぉ。

「それと、君達が勝利する方法は、僕がひとつだけ結界を解いとくからそこから逃げ出してね」

こうして半ば強制的に鬼ごっこが始まったのであった。