獄火鬼

序章



「それじゃあ、今から人間界に行って悪霊をわしの所まで連れてくる仕事をする奴を決めるのじゃ」

何も変わらない毎日。
日々獄卒達が地獄の死者を痛ぶり、泣きわめく姿を高みの見物をしてる。
そんな毎日を退屈だとか飽きたとか思ったことは無い。
寧ろ優越感に浸り、とても気分がいい。
今日は数年に1度行われる地獄長会議。
各役職のリーダーが集まり閻魔の話を聞くだけの会議だ。

「今日から人間界に行ってもらう者なんじゃが、わしが勝手に決めたが良いかのぉ?」
向かい合わせになった2つの机の端にいる閻魔がしゃがれた声で告げた。
あー。早く帰って寝たい。どうせ下級獄卒達だろ?
俺はあまりの眠たさにこくっこくっと首が座ってないかのように揺れてる。

「1人は茨木童子」
「はっ!」
閻魔の使命に1人の獄卒が気持ちいいくらいキレっキレの返事をした。
ほえー。茨木行くのか。どんまいじゃん。てか、まだ朝の2時かよ。辛っ!
俺は小指で鼻をほじりながら壁にかかってる時計を確認してボケっとしてた。

「もう1人は」
まだいんのかよ。早く終わらせろよ、クソジジイ。

「ーー酒呑童子だ」

「……は?」
思わぬ指名につい間抜けな声が出てしまった。

「は? ではない。返事は?」
「あ、はい。でもなんで?」
「なんでって、なんとなくなのじゃ」
「他の獄卒達にやらせればよくね?」
「こいつらも休みたいじゃろ。なぁ?」

閻魔が各役職のリーダーの方を向くと、目を輝かせて頷いた。
……あとで、ぶち殺す。

「この仕事を断ったら、100年酒禁止にするがどうするのじゃ?」
淡々と俺にとっては怖いことを言われ、一気に目が覚めた。
100年っ!? それはダメだ……
くっそぉ……釣り方がずりぃぜ……

「わぁったよ! やればいいんだろ! やれば!」
「決まりだ」

そして、この日、俺と茨木童子は人間界に降りたった。
俺の秘密基地に大量の酒を隠して。