さて、その丸子橋、まだ行政区的には都内となる大田区側を走っていると、夜であるから当然辺りは川面は暗く、近くに武蔵小杉に聳えるタワーマンション群の灯りが、右には二子多摩川、左には川崎駅方面の夜景を望みつつ、ふと視界の前方、その隅でざわつきを覚えたところ、丸子橋の中腹で胸元に蝋燭よりも仄かな灯りを点しておる人のような、遠目には辛うじて外縁が人の形をしているかのようなとしか見えない何かが、胸元の灯りをときおり見え隠れするように、恐らく頭部が私の視界を灯りから遮っているのだろうが、そのようにして蹲っているかのようだった。何やら体調のよろしくないご婦人(なぜ女性かと直感したのかはいまをもって説明にこまることではあるのだが)が、お困りなのではなかろうかと思いつつ近づいてゆくにつれ明瞭に姿を現す、そこに居るものは。
 ――狐、のようなものであった。