「今日の服、可愛いね」
信号待ちで並んだ時、言ってみた。彼女はさりげなく華やかな、「初めてのデートだったらこれくらい」という感じの装いだ。
「……ありがとう」
照れたように言う。
その笑顔がとても可愛い。服装も、表情も、雰囲気も全てが完璧で、音楽を取ったら何も残らないような僕には勿体なさすぎる。
信号が青に変わり、人の波は再び動き出した。

「ここ」
指差しながら、声を掛ける。
「わぁ、すごい。趣ある!」
彼女が少しはしゃいだ声を上げる。
『南町昭和映画記念館』という名のそこは、読んで字の如く昭和風の外観だ。瓦屋根があまり映画館っぽく無いとも思う。近代的ビルの間に挟まれて、そこだけ時代に取り残された感じがする。
「じゃ、入ろ」
「うん」
引き戸をガラガラと開けて(自動ドアでは無いのがまたいい)入った。