目覚めると、既に太陽は南東の空に昇っていて、辺りはすっかり昼の喧騒だった。冬休みに入ってから、もう何日もこんなのが続いている。
朝9時か10時くらいに起きて、昼まで勉強し、朝食兼昼食を食べた後は、ギターの練習。
高校と違い、夏休みや冬休みが長いから、思う存分自由時間を過ごしていた。
今日もそんな感じかなと思っていたのだけれど、違っていた。

正午を少し回り食事をしている時、いつもは何も知らせないスマホが、メールを受信したのだ。
僕は箸を止め、スマホの受信ファイルを開く。
『山岸冬月』
その表示を見た途端、僕の心臓はドクンドクンと大きく脈打つ。息が苦しい。恐る恐る、そのメールを開いた。

『皆川さん、おはようございます。メリークリスマス!今日は何か予定ありますか?もしよかったら、何処か行きませんか?』

もちろん、こうなったら断る気はない。
すぐに彼女に返信しようと思ったけれど、なんだか僕は、今すぐにでも彼女の声が聞きたかった。
僕は迷わず電話帳から彼女の番号を表示させ、通話ボタンを押した。
コール音が、2回、3回……
彼女が出た。繋がった気がした。

『もしもし』
「もしもし、皆川です」
『おはようございます!』
彼女の声がやたら明るくて、僕も嬉しくなる。
「ああ、おはよう。えっと、メールありがとう。今日は予定ないよ。どっか行きたいとこある?」
『いえ。皆川さんの行きたいところでいいですよ』
んん。どうしよう。
確か、少し前から話題になってる映画があって、ちょうど今から見にいける2時半くらいのスタートだったはず。
「じゃあ、映画とかどう?」
『あっ、いいですね!』
「それじゃあ、昨日の駅前に2時くらいで大丈夫?」
『はい』
「じゃあ、また後で」

耳から離して、そっと親指で通話終了のマークをタップした。
その瞬間、喜びが爆発した。1人でいるこの部屋は、なんとも言えない達成感で満ちていた。

山岸さんとの約束を決めた僕は、せかせかと用意を始めた。まずスマホから、この近くの映画館の上映予定を確認する。
記憶通り、僕が気になっている映画は2時半からの上映だった。
アクション映画なのだけれど、彼女は楽しめるだろうか。あまりそういうのを好きそうな雰囲気ではないのだけれど。
それでも、彼女と一緒に映画を観るという事実に、僕の心は弾んでいた。