八月の夏休みも終わりに近付いてきた頃だった。

私は出先から家に帰る途中に、ある光景を目撃した。
遠く離れた場所から見えただけなんだけど、それは今でも鮮明に覚えていて、見ていて気持ちのいい光景じゃない・・・・。

人気のないトンネルの中で二人の女の子が複数の男女に絡まれ暴行を受けていた。
逃げ回る女の子二人を追い掛け、複数の男女は殴るや蹴るなどの最悪な行動。

『やめて』と言う二人の女の子の悲鳴がトンネルの中で響き渡るけど、そのトンネルはあまり人の通らない静かな場所。
通行人なんて私くらい。

そんな目の前の、漫画でしか見たことのない『非現実』的なあり得ない光景に、私の足は震えていた。
恐ろしい光景に思わず目を逸らしてしまう。

同時に『助けないといけない』って自分の中で感じたけど・・・・。

・・・・・・・・。

結局私、目の前の光景が怖くなって逃げてしまった。
二人の女の子がいる人気のないトンネルは私の帰り道なのに、私はトンネル内を通らずに遠回りして帰った。

その現場の女の子を助けようとせずに、自分の安全のことだけを考えてしまった。
暴行を受ける女の子は『助けて』って叫んだ気がするけど、私は誰も助けも呼んでいない。

だからさっきの光景は、『自分の見間違え』だと勝手に記憶を書き換えた。
そして自分の脳内からその光景を削除した。
まるで、最初から二人の女の子の暴行なんてなかったかのように。

だって、知らない人達だし。
そもそも暴行されていた女の子も、暴行を加えていた人達も、私からしたら知らない人達だったし。

でも遠くから見ただけだから、しっかりとその人達の顔を見たわけじゃないけど・・・・。

だけどその二人の女の子『北條さんと小坂さんに似ているな』って少し思ったから、 完全には記憶は消えなかった。
ずっと脳内からその日見た光景が離れなかった。

まるで神様に『逃げるな』と言われているような気がして。

『なんでその記憶が消えないのか、お前自身は考えた事があるのか?』って問われている気がして・・・・。

そして残りの夏休みは二人から遊びの連絡は一切来なかったから、私は震えて残りの夏休みを自分の部屋で過ごしていた。

夏休みが明ければ、また北條さんと小坂さんと会えて『楽しい日々』が始まると言うのに。
また三人で笑える日が来るって言うのに・・・・。

あの出来事を見てから不思議と学校に行くのが嫌に感じた。
胸が苦しくなった。

『私、とんでもない大罪を犯したのじゃないか?』って、ずっと思っていたし。

『あの時に暴行を受けていた二人は、北條さんと小坂さんだったらどうしよう』ってずっと考えていたから、なおさら・・・・・。