「……また、」
「ん?何か言った?」
また、奏世と仕事がしたい。一緒に同じ作品で演じたい。
やっぱり奏世は私が追い求めるものだ。


  ▽


「かんなちゃん、おはよう!」
「……休日まで電車が一緒だと流石に怖いんだけど」
「本気でたまたまだって」
「そんなことあるわけないでしょ!」
今日は撮影がないため、レッスンがお昼まで入っている。レッスン後には古坂さんとランチの予定だ。確か、地中海料理の美味しいお店を見つけたって張り切っていた。
「牧丘くんもレッスンなの?」
「いや、今日はファッション雑誌のインタビュー」
「そう」
心のメモに書き留める。発売されたら逃さず買わなくちゃ。
しかし、やはりその容姿だとファッション雑誌のお仕事も多い。メンズファッション雑誌は買うのにちょっぴり抵抗があるから、女性雑誌のインタビューであってほしいと個人的に願う。
休日なので今日の奏世の格好は私服だった。5月の陽気にぴったりな、爽やかな色合いのシャツが悔しいほど似合っている。
「この前、その雑誌でゲストとして撮影させてもらったんだ。モデルの女の子の恋人役として」
「えっ女性ファッション雑誌なの?」
「え、気になるのそこ?」
「他に何があるのよ」
「恋人役やったんだけどなあ。ヤキモチやいてくれてもいいのに」
「牧丘くんの彼女でも何でもないから、私」
「そのモデルさん、MADOKAちゃんなんだよね」
「え!」
MADOKAとは、正真正銘私の妹である。数年前にティーン向けのファッション雑誌でモデルデビューしたのだ。芸名は本名をそのままローマ字表記にしただけである。
既に撮影したと言っているが、円花は何も言ってなかった。
きっとわざとだろうな。家に帰ったら円花問い詰めてやる。
「……て、あれ?知ってるの?」
「うん。妹さんでしょ?俺と同い年の」
そうだった、妹と奏世は同い年だった。へえ、奏世が円花の恋人役。
絶対雑誌買っておこう。
「かんなちゃん、ここまで言っても嫉妬してくれないのか。むしろ燃えてきた」
「何にも燃えなくていいから」
「もしかしてかんなちゃんってツンデレ?」
「そろそろ黙った方が身のためだよ」
3年間付きまとわれているけど、この春から電車も一緒になれば冷たくしても距離が縮まってしまっている気がする。奏世の浮ついた発言を一蹴しても、自惚れは日に日に増している。
どうしてこの男は自惚れるの。どうして私にそんな言葉をかけてくるの。
仕事モードの奏世を沢山見ていても、プライベートの奏世はよく分からない。どれも奏世には変わりないはずなのに。
「じゃあ、かんなちゃんも頑張って!」
雑誌の編集部に直行だという奏世は、私の降りる駅の手前で降りていった。



  ▽


レッスンを全て終え、古坂さんの車でランチしに行く。
その地中海料理のお店は事務所から車で30分ほどのところにあった。
店内は落ち着いた雰囲気で、運ばれてきたブイヤベースはニンニクが良く効いていて美味しい。
「この前は撮影お疲れ様。CM見たけどとっても良かったよ」
「ありがとうございます」
古坂さんはパエリアを美味しそうに口に運んでいる。古坂さんは大食いではないものの食べることが大好きで、よくこうやってお店に連れてきてくれる。しかも、古坂さんのお店選びは外れないのだ。
「……栞菜」
「はい?」
「学校、楽しい?」
あ。そういえば、知っていてくれているのは古坂さんだけだったな。
少し、お腹のあたりがきゅっとなった。
「はい、高校はとっても楽しいですよ」
「そう、なら良かった」
私の過去を知っているのは古坂さんだけだ。
今の私はもう弱くない。ちゃんと自分の足で立っていられるし、小さなことじゃ挫けない。
「中学と違って、何もないですから」
高校には私をいじめる子は一人もいない。
中学はそれこそ酷いもので、今でも思い出したくない過去だ。
いじめの内容が酷い訳じゃない。いじめ自体はくだらないことばかりで、辛かったのは時期だった。奏世が人気子役としてその名を轟かせた後から高校に上がる頃まで、私は今までの人気っぷりからは考えられない程、人気が停滞した。
「栞菜ちゃんは演技がすごくいいけど、微妙な年齢だからね」
それはまるで、もう人気の時みたいに可愛くはないと言われているようだった。お前が成長していく姿には興味ないとでも言われているようだった。
だって実際、人気は減った。
それはつまり、そういうことでしょう?
中々仕事がまわってこない期間、勿論奏世はどんどん人気を博していった。それが辛かった。追いかけたいのに、追いかける術が与えられない。奏世ばかり大きくなって、私には光が当たらない。
そんな時期に、学校でも友達があまり口をきいてくれないと、流石の私も応えた。
小さないじめの理由は妬みだった。

最初は「アンタ、松木くんに色目使ったでしょ!」とクラスの女王様のような女の子から呼び出されたことだったと思う。
私、男の子には誰にも興味ないし。というより、恋愛に時間を割く暇はないの。私は仕事を選んだ代わりに青春を諦めたの。そもそも、松木くんって誰ですか?
心の中で反論の言葉を並べてみるが、それを口に出せば火に油だと分かっていたから敢えて何も言い返さなかった。
それが彼女にとって癪だったのか、そこからあまりクラスメイトが口をきいてくれなくなったのだ。芸能人だからって生意気だ、と。
仕事が絶不調なら、せめて友達との時間に救われたかった。
私は、車で迎えに来てくれていた古坂さんが「栞菜、何があったの」と問うてくれていなかったら、誰にも救われていなかったかもしれない。
どうして分かったんですか、と古坂さんに聞いたら、「だって栞菜、学校なのに気を張り詰めたような顔をしてたから」だそうだ。血の繋がらないただの他人と言えど、隣で一緒に仕事をしている古坂さんには何でもお見通しだと観念し、全てを吐き出してしまった。
「栞菜、ごめんね。思い出させちゃったね」
「え?」
「さっきから進んでない」
ブイヤベースを指差され、慌てて口を動かした。
でも、本当に今は大丈夫。
高校では友達が沢山いるし、お仕事もまた増えてきているし、それに。
「……牧丘奏世のおかげでもあるかも」
「え?奏世くん?」
「だって、彼がいなかったらあの時演技も諦めていたかもしれない」
幸いにも目標があったから、負けず嫌いの性格で乗り越えられたのかもしれない。
そう考えると、奏世にも救われているということになるのか。
でもやっぱり、本人にはこんな気持ちを素直に伝えることなんて出来ないし、冷たくあしらってしまう態度も改めることができない。また同じ電車になっても、きっといつも通り奏世の自惚れに毒づいてしまうだろう。


季節は梅雨に差し掛かり、雨勝ちな日々が続いている。
最近は私の出ている番組も奏世の出ている番組もあまりないため、毎週の楽しみは塩谷さんの出ているドラマだ。
あれから二ヶ月以上が経とうとしている。ドラマは終盤に差し掛かり、次々と大きな展開が起こるので、より一層目が離せない。
「――おい、お前目ぇ覚ませよ!」
「――珍しいね、あんたが他人にそういうこと言うの」
「――は?」
「――そんなあんたに言われても、何にも響いてこないから。あたしはあたしの勝手でしょ。構わないでよ!」
「――おい、リサ!」
何と、私の予想と古坂さんの予想がどちらも当たった。塩谷さん演じる主人公がリサに恋に落ちるが、リサが妻子持ちの男性と恋愛関係を持っていたことが発覚したのだ。
何ともドロドロな展開なのだが、爽やかな印象も生まれるのは何故だろうか。それが、塩谷さんを含む役者さんの実力と言うのか。
「ねえ、栞菜。最終回は二人で一緒に事務所で見ようよ!」
「あ、いいですね。古坂さんとなら楽しめそう!」
今日は既に雑誌のインタビューを出版社で受け、今から古坂さんの車で事務所に向かう。雨が酷く、足元が悪いからとわざわざ自宅まで迎えに来てくれ、出版社まで連れて行ってくれた。
古坂さんのマンションと私の自宅はさほど遠くはないが、それでもこうして気を遣ってもらえるのは嬉しい。
「それで、わざわざ事務所に帰るなんて何かあるんですか?」
普段ならレッスンが入っていない限り、事務所に帰ることはあまりない。と言うことは、何かお仕事でも入ったのだろうか。
古坂さんは少し苦笑いを浮かべ、それから口を開いた。
「まあ、行けば分かるから」
古坂さんが濁す時は、大抵私にとって意表をつかれるような出来事が待っている。この前の奏世とのCM共演だってそうだ。言いづらいのではなく、敢えて濁しているのだ。
でも、苦笑いも添えるなんて。今回は本当に言いづらいことなのだろうか。
色んな憶測を立ててみるが、どれもピンとこない。あと10分で事務所に着くから考えるのはやめよう、という考えで結論付けた。

事務所に到着し、地下の駐車場からエレベーターであがる。目的階に到着して、エレベーターの扉が開いたのだが。
そこには。
「えっな、なんでここに」
「かんなちゃん!?」
何故か大嫌いなあいつがいる!
ここは私の事務所であって、彼は他事務所。本来ならここにいるはずじゃない。どうして。
「え、え、社長?これはどういう」
「栞菜ちゃんも来たんだね。それじゃ、奏世くんも栞菜ちゃんも奥の第一会議室に入って待っていて」
「え!?」
最後の声は奏世だ。奏世がどうしてここにいるのか分からないが、反応からして奏世も詳しいことは知らされていないようだ。
嫌な予感しかしない。というか、既視感。
二度目とあって、冷静に予測は立った。
――奏世と共演だ。
「こんにちは」
暫くして会議室に入ってきたのは、何と大物監督だった。
この業界じゃ知らない人はいないほどで、バンバン世に名作を送り出す監督だ。話は聞いていたが、実際にお会いするのは実は初めて。
一気に場の空気は緊張に包まれる。奏世でさえ緊張しているのが伝わってきた。無意識に背筋がピンとなる。
「映画監督の大谷です。率直に言います。小鳥遊さんと牧丘さんに映画に出てほしいんです」
ごくり、飲み込む。
「作品は『光待つモーメント』、あのベストセラー作家の石川孝月さんの作品です。この作品を実写化しようと思った時、主演の二人はあなた方だな、と」
石川孝月さん、その名は勿論知っている。
仕事柄、小説や漫画を実写化というパターンはよくあることだから、小説は普段からよく読んでいる。『光待つモーメント』は読んだことはないものの、石川さんの他作品は幾つか読んだことがある。
「どうして私たちだと、思ってくれたのですか?」
「まずは、この作品を実力派俳優・女優に演じてもらいたかったんです。本の世界観を考えると、ブームや人気でキャスティングはしたくないなと。それから、二人の醸し出す雰囲気や登場人物との照らし合わせをして、二人を指名したいと」
事態に冷静に対応するものの、正直頭の中は混乱していた。
だって、奏世と共演というだけで物凄く気が張るのに。それに加え、大物監督から有名作品の主演を監督直々に指名された。
正直、私にとってあまりにも大きすぎる仕事だ。

「撮影は7月中旬から短期集中で予定しています。引き受けてくださいますか」
「是非、よろしくお願いします」
真っ先に奏世が頭を下げた。その勢いに刹那飲み込まれそうになったが、
「よろしくお願いします」
私も続けて頭を下げた。
その後、話の簡単な流れや撮影の詳細を説明され、最後に原作小説を渡された。
「それじゃあ、よろしく」
「ありがとうございました、よろしくお願いします」
監督を見送った後、私はようやく気を緩めたのだが、奏世は帰る気配を何故か見せない。そしてあろうことか、渡されたばかりの小説を読み始めた。
「え、ここで読むの?」
「かんなちゃん、この後何も予定ないでしょ?この厚さだったら1時間ちょっとで読み終わるだろうし。それからこの作品について話し合おうよ」
「……分かった」
奏世は、勿論原作があれば台本渡されるまで復読するのだが、まずは真っ新な状態で初めて読み終わった後の素直に感じたものを大切にしたいらしい。今回はW主演ということなので、私とも話し合いたいそうだ。
プライベートの浮ついた奏世は嫌いだけど、仕事モードの奏世は好きだ。その奏世が言うのであれば、私は素直に従う。
石川さんの文体は平易な文章ながら奥が深く、表現が多彩だ。それほど本も厚くなかったので、確かにあっという間に読み終えてしまった。
読み終えたタイミングはほぼ同時。それから二人は日が暮れるまで会議室で沢山話し合った。
この作品は色んな光を待つお話だ。その光は夢だったり、希望だったり、愛だったり。様々な形を通じて各々の光を探し求め、その瞬間を待つというもの。
私は灯(あかり)役、奏世はアンリ役だ。
作中で、灯とアンリは恋に落ち、愛に触れる。けれど愛を生むことより愛し続けることの方が困難で、二人を様々な困難が待ち受ける。家族、友情、夢、生別。アンリは灯を思って灯の元から離れるが、それは一方的で愛ではないと、灯はアンリを探しに出る。最後は再び二人は結ばれるが、それと同時に思わぬ光も当たることになる。
二人がメインだが、二人以外の光待つサブストーリーが幾つも並行して話は構成されている。
一つ一つの想いが切ないながらも愛おしく温かい作品だ。
奏世と多視点から作品を語り合いながら、ふと頭によぎったことがあった。
それは、作中で奏世と恋人同士になるという点。

勿論役者として演じようと思えば演じられるが、今までの私たちとはまるで逆だ。恋に落ちるどころか、私は奏世を冷たくあしらっているし、この前撮ったばかりのCMだって対立関係という設定だった。
奏世に優しく愛のある台詞をかけることがどうも引っかかる。相手が奏世でなく「アンリ」だと思えばいいだけなのだが、それでも演じるのは奏世だ。
奏世も同じことを思ったのだろう。ふと、とんでもないことを言い出した。
「かんなちゃん、デートしよう」
「え、な、何で牧丘くんと。別にデートなんて」
「かんなちゃんがそうだからだよ」
「……私?」
ドキリ、鼓動が変に速くなる。
「かんなちゃんが俺に素直になれるように、俺のこと好きになってもらえるように。今度の日曜日、デートしよう」
何だか少し気まずく思ったのは何故。
「このままじゃ、俺とかんなちゃんはアンリと灯になりきれないし」
「ご……」
ごめん、が素直に言えないのはきっと長い時間と関係のせいだ。
世界で一番負けたくないのは間違いなく奏世だ。私の初めてのライバルであり、生涯のライバルだ。奏世は私をライバルだと思っていなくても、私はそう思っている。
ずっと奏世を追い抜くために、演技に全力を傾注してきた。だから、奏世と恋人役なんて、どうすればいいのか分からない。
負けず嫌いの性格が、私を素直にさせてくれない。奏世と素直に向き合えない。
「……仕方ないから、デートしてあげる」
頑張ってやっと出た言葉は、強気に塗れたものだった。





あの後、そういえば連絡先を知らないと気付き、仕方なく奏世と番号とアドレスを交換した。性格上、連絡はまめに丁寧にするタイプなのに、奏世からの連絡にはあまり長い言葉で返せない。
それでも何とかデートの約束を付け、今週末に遊園地にデートすることになった。
なんてベタな、と思ったがそこは奏世に言いくるめられてしまった。お互い所属事務所は恋愛NGという決まりはなく、そのあたりは割と緩いからと、マスク着用も禁止された。しょうがないから伊達メガネで観念することにした。

「俺、晴れ男だから」
そう宣言した通り、本当に当日は晴れた。今は梅雨なのに何て男だ。
暖かい予報だったので、買ったばかりのサマーワンピースに薄手のカーディガンを肩にかける。履き慣れないミュールは足元をぐらつかせる。
奏世とデートだから、デートらしい格好をしてきたわけじゃない。相手が奏世であろうが、人生で初めてのデートに気の抜けた格好は何だか嫌だったから。
「おはよう」
待ち合わせ場所に着くと、先に来ていた奏世がふにゃりと笑う。
その笑顔に私はまた意地を張ってしまうことを、奏世は知っているのだろうか。
「さっさと行くよ」
「ねえ、年下で頼りないかもしれないけどさ。今日は男にリードさせてよ」
にこり、左手を差し出してくる。もしかしなくてもこれは、手を繋げと?
改札前でいつまでも立ち止まったままだと邪魔だからと理由をつけて、大人しく手を繋いだ私はどこまで馬鹿なんだろうか。
今日はきっと、1日中奏世の甘い演技に付き合わなくちゃいけない。果たして私はいつまで耐えられるだろう。
「あれ、牧丘くん。チケットは?」
「もう事前に買ってあるから。はい、かんなちゃんの分」
差し出された前売券を受け取ったが、
「お金!待って、今出すから。いくらだった?」
「んー0円?」
「ちょっと!駄目だよ、私払うから!」
「分かった、こうしよ。これから俺のこと下の名前で呼んで。それでチャラ」
「それなら払います」
「ごめんごめん。頼むよ、かんな」
不意打ちの呼び捨てにドキリ、心臓が高鳴る。
相手はふたつも年下なのに、ライバルなのに。ただでさえ呼び捨ては友達からすら呼ばれないから、何だか慣れないのに。
「……もしかして、ずっと気にしてた?」
「だって、名字にくん付けって年下扱いされてるみたいだし。恋人役やるんだから、この際呼んでくれたらなって」
「……分かった。奏世」
仕方なくそう呼ぶと、想像以上に嬉しそうにするから何だか気が狂う。
このままじゃ奏世に流される。飲まれる。
休日と言えど、梅雨期間だからかそこまで混んでいなかったので、少しの待ち時間でどのアトラクションも乗ることができた。待ち時間は奏世の話をひたすら聞く係。口を開いたらまたつっかかってしまいそうで、この場では流石にする気になれず口を閉じた。
「楽しい?」
「……うん」

幸いにも周りの一般客からは私たちが芸能人だと気付かれていない。遊園地なんて楽しい場所だと仕事のことも忘れられる。今日のデートらしい服装も、私を普通の女の子に感じさせてくれた。だからか、いつもより少しだけ素直になれた。
お化け屋敷に入った時も、素直に奏世に腕を絡ませられた。外に出たら速攻で腕を離してしまったけど。
「やっぱり遊園地の締めは観覧車だよね」
「え?それは絶対無理」
観覧車?カップルのために作られたようなあの乗り物に奏世と二人で?
否、流石に無理よ。
「ん、かんなって高いところ苦手?」
「そういうわけじゃ……」
流石に恥ずかしい。あんな密室に奏世と二人きりでしょう?
今日の私たちは周りから見たらカップルに見えるかもしれないけれど、これはただの演技。お仕事のための役作り。
奏世と恋人同士なら乗れるかもしれないけれど、私たちは仕事仲間だ。
「なら乗ろう」
「ちょっと待って、奏世!」
奏世に半ば強引に観覧車に乗せられた。
一周15分。思ったより長い。
私は抵抗することを諦め、仕方なく腰掛けた。心臓が今までにないくらい鼓動を打っているのが自分でも分かって、手に汗が滲む。
奏世は私の向かい側に座る、……と思ったのだが。
「ちょっと!何で隣に座るのよ!」
「大丈夫だって。傾かないし」
「そういう問題じゃなくって!」
ぴったり私の横に座って外を眺める奏世を見て、今までで一番恨めしく思った。
ほら、やっぱり奏世のペースに巻き込まれる。
奏世から顔を逸らし、反対側の窓から景色を眺める。
まるで小さな模型を見ているように、人は小さく建物も随分と低く見える。あの中に混ざって私たちも恋人のように振る舞っていたと思うと、恥ずかしさに顔が熱くなる。
遊園地は楽しくて、そう思うと時間はあっという間に過ぎる筈なのに、今日は何故か1日が長く感じる。この観覧車だって、やっと真上だ。まだ半分しか過ぎていないなんて。
「ん、顔赤くない?もしかして恥ずかしいの?」
「まさか。暑いだけだから」
「ねえ、そろそろ認めちゃいなよ、俺のこと好きだって」
「な、何言って……!」
「違うの?」
「……アンタと私はね!仕事上ライバルなのよ!恋人役を演じるからって、馴れ馴れしくしないで!」
奏世の思わぬ発言に、自分でも吃驚するくらい酷いことを言ったと思った。いくら演技だからって、この自惚れ男に振り回されたら自分でも何が正しいのか分からなくなる。自分の行動も、自分の気持ちも。