季節は梅雨に差し掛かり、雨勝ちな日々が続いている。
最近は私の出ている番組も奏世の出ている番組もあまりないため、毎週の楽しみは塩谷さんの出ているドラマだ。
あれから二ヶ月以上が経とうとしている。ドラマは終盤に差し掛かり、次々と大きな展開が起こるので、より一層目が離せない。
「――おい、お前目ぇ覚ませよ!」
「――珍しいね、あんたが他人にそういうこと言うの」
「――は?」
「――そんなあんたに言われても、何にも響いてこないから。あたしはあたしの勝手でしょ。構わないでよ!」
「――おい、リサ!」
何と、私の予想と古坂さんの予想がどちらも当たった。塩谷さん演じる主人公がリサに恋に落ちるが、リサが妻子持ちの男性と恋愛関係を持っていたことが発覚したのだ。
何ともドロドロな展開なのだが、爽やかな印象も生まれるのは何故だろうか。それが、塩谷さんを含む役者さんの実力と言うのか。
「ねえ、栞菜。最終回は二人で一緒に事務所で見ようよ!」
「あ、いいですね。古坂さんとなら楽しめそう!」
今日は既に雑誌のインタビューを出版社で受け、今から古坂さんの車で事務所に向かう。雨が酷く、足元が悪いからとわざわざ自宅まで迎えに来てくれ、出版社まで連れて行ってくれた。
古坂さんのマンションと私の自宅はさほど遠くはないが、それでもこうして気を遣ってもらえるのは嬉しい。
「それで、わざわざ事務所に帰るなんて何かあるんですか?」
普段ならレッスンが入っていない限り、事務所に帰ることはあまりない。と言うことは、何かお仕事でも入ったのだろうか。
古坂さんは少し苦笑いを浮かべ、それから口を開いた。
「まあ、行けば分かるから」
古坂さんが濁す時は、大抵私にとって意表をつかれるような出来事が待っている。この前の奏世とのCM共演だってそうだ。言いづらいのではなく、敢えて濁しているのだ。
でも、苦笑いも添えるなんて。今回は本当に言いづらいことなのだろうか。
色んな憶測を立ててみるが、どれもピンとこない。あと10分で事務所に着くから考えるのはやめよう、という考えで結論付けた。