「かんなちゃん!この前のドラマ観たよ、素敵だった!」
「塩谷さんと共演したんだね、凄いなあ。」
「かんなちゃん、可愛かったよ!」
「ちょっと照れるよ、でもありがと。」
私は現在、高校3年生。学業を疎かにしたくない私は、なるべく学校を休まないようにと撮影やレッスンを放課後や休日に組んでもらっている。そのおかげで、高校はとっても楽しい。
はじめはやっぱり芸能人というだけで騒がれたり注目されることが多かったが、今ではみんな気さくに接してくれる。その方がありがたかったし、学校では「小鳥遊栞菜」としてはあまり過ごしたくなかった。
「それにしても、かんなちゃんって本当に男の子との噂がないよね。今まで彼氏いたことないの?」
「いないよ、お仕事で精一杯だったから。あまり男の子と絡んだこともないし」
「えーもったいないよ!でも、好意を寄せられたことくらいはあるでしょ?」
好意、かあ。
あれは好意に入るの?いや、ないない。あれはない。
「ないよ」
「え、何今の間」
友達と笑いあう時間は楽しい。放課後にレッスンがある日も、こうして駅までは友達と話しながら歩く。
駅に着けば友達と別れて、事務所へ電車で向かう。高校から事務所はさほど遠くないため、電車に揺られる時間は30分程度。
その時間は携帯を見たり、考え事をしたり。あまり公共機関で台本を読むのは避けているので(役者は台本だけでなく情報が公開されるまではどんなことも秘密は守らなければならない)、意外とこの時間はぼうっと過ごす。
そういえば、この春から牧丘奏世も高校生だ。
奏世とは所属事務所が違う上に通っている高校も違うので、普通ならば撮影で一緒にならない限り滅多に会うこともない筈。
そう、普通ならば。
「こんにちはー」
「……毎回毎回、飽きないね」
「たまたまだって。でも、かんなちゃんも満更じゃないでしょ?」
「はいはい」
嘘つけ。たまたまで毎回同じ電車になるか。
ついつい毒を吐いちゃうのはこの男のせいだと思う。私のせいではない、絶対に。
「ていうか、毎回一緒にいたら撮られるじゃない」
「大丈夫、ばれないばれない。かんなちゃん、いつもマスクしてるじゃん」
「アンタが目立つのよ」
この男、牧丘奏世はだいぶ鬱陶しい。