(〈ほんとの幸せ〉は、宏樹君とずっと一緒にいることなのに……)

 紫織の気持ちに気付いていながら、宏樹がはぐらかしたのは彼女も分かっていた。

 ほんの少しだけ、朋也ならば、と思ってしまったこともないわけではない。
 しかし、朋也ではいけないのだ。
 宏樹じゃなければ意味がない。

「もう……、どうしたらいいのよ……」

 紫織は両腕を交差させると、コートを強く握り締めて蹲った。

 みんな苦しんでいる。
 宏樹や朋也はもちろん、涼香だって、本当は堪らなく辛いに決まっている。

 それなのに自分は何だろう。
 まるっきり、悲劇のヒロイン気取りだ。

(もっと……、強くならないと……。みんなのように……)

 紫織は顔を上げ、夜空を仰いだ。

 限りある生命を燃やすように輝き続ける冬の星達。
 それを見ていると、自分のちっぽけさを改めて思い知らされた。

「頑張らなきゃ……」

 口に出してみた。

 弱い自分の心に、強く言い聞かせるように。

[第七話-End]