予想はしていたが、やはり、当時の宏樹は紫織を探すことに抵抗を感じていたのだ。
 それを改めて宏樹の口から聴かされたことで、傷付いたりはしていない。
 むしろ、最後まで諦めずに自分を探してくれた彼に感謝していた。

 宏樹に〈ひみつきち〉のことを教えなければ、いや、想い出してさえくれなければ、紫織は、またずっと、あの暗くて凍える中で助けを待ち続けていたことになっていたかもしれなかったのだから。

「ありがとう」

 今さらながら、紫織は宏樹に礼を述べた。

 宏樹は一瞬目を丸くさせたが、すぐにニッコリと笑み、「どういたしまして」と返してきた。

「もう、無茶はするなよ?」

「しません! 私もう、あの時のような子供じゃないもん」

 紫織がムキになって言うと、宏樹は、ハハッ、と乾いた笑い声を上げた。

「さてと、あんまり外に出っ放しでいるのも拙いな」

 宏樹はそう言うと、自らが身に纏っているコートを脱いだ。

 紫織は宏樹の行動を訝しく思ったが、すぐにその理由を察した。

 コートが、紫織の肩からそっとかけられた。
 それは自分が普段着ている物よりも重く、そして、ほんのりと温もりを感じる。

 紫織は、目を大きく見開きながら宏樹を見た。