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 宏樹がここまで爆笑しているのは本当に珍しい。
 もちろん、声を上げて笑う姿は何度も目にしているが、いつもなら、ちょっと笑っただけですぐに真顔に戻ってしまう。

(そういえば宏樹君、ちょっとお酒臭い……)

 宏樹から吐き出される息に、紫織は眉をひそめる。
 宏樹はとっくに成人しているのだし、アルコールぐらいは普通に呷っていて当然だと分かっているのだが、それでも、まだまだ未成年でアルコールとは無縁な紫織には、その臭いは不快以外の何ものでもない。

 このお酒臭さ、本人は気付いているのかな、と紫織はふと思った。

「ああ……、苦し過ぎる……」

 やっと、宏樹から笑い声が止まった。
 目には涙を浮かべているので、それだけ見ても、どれだけ笑い続けていたのかが覗い知れる。
 紫織にしてみたら、失礼極まりないものであったが。

「でも、あの時はほんとに無事で良かったよ」
 散々笑った宏樹は、いつもの如く、小さく笑みながら紫織に言った。

「本音を言うと、紫織を見付け出す自信がなかったからな。俺もさすがに寒くて、途中で嫌になってしまった。――何故、ここまでして面倒を見なきゃなんないんだ、って。
 けど、紫織はもっと心細い想いをしているかもしれないって考えたら、弱音なんか吐いちゃいられないと思った。
 今だから言うけど、〈ひみつきち〉のことを想い出したのも、ほんとに偶然だったしな」

 ひとつひとつ言葉を紡ぐ宏樹を、紫織は真っ直ぐに見つめた。