「そういえば」

 ふと、紫織が口を開いた。

「宏樹君、憶えてる? 私が迷子になっちゃった時のこと」

「迷子……? ――ああ、あの時か」

 紫織から改めて訊ねられ、宏樹も過去のことを想い出した。

 あれは今から十年前、ちょうど、宏樹は今の紫織や朋也と同じ年の頃だった。

 まだ六歳だった紫織は、こんな寒空の下、しかも真っ暗な中で、〈ひみつきち〉と称した大型の土管の中でひとり怯えていた。

 宏樹を見たとたん、土管から泣きじゃくりながら這い出てきた紫織。
 あの時の紫織の心細さは、宏樹の想像を遥かに超えるものだっただろう。

「ほんとに、あの時は見付からなかったらどうしようかと思ったよ」

 当時のことを振り返りながら言うと、紫織はばつが悪そうに「ごめんなさい」と呟いた。

「で、今さらだけど、何であんな時間にそこにいたんだ?」

 宏樹の質問を受けた紫織は、目をキョロキョロと忙しなく動かしていた。