(ガラじゃないな、全く……)

 そんなことを思いながら、微苦笑を浮かべた時だった。

「宏樹君!」

 こんな遅い時間帯に、あり得ないはずの少女の声が耳に飛び込んできた。

 宏樹は夜空から視線を外すと、ゆっくりと首を動かした。

「遅かったね」

 少女――紫織は、水色のセーターに焦げ茶色のロングスカートだけという、非常に寒々しい格好でそこに立っていた。

 宏樹は微苦笑を浮かべた。

「紫織こそどうした? 風邪、まだ完全には良くなってないんだろ? こんな時間にそんな格好で外に出ていたら、またぶり返すぞ」

 そう注意すると、紫織は自らの身体を両腕で抱き締めながら「だって」と続けた。

「たまたま部屋の窓から外を見ていたら、宏樹君が帰って来たのが見えたから。けど、家にも入らないでぼんやり突っ立てるんだもん。――私、何だか気になっちゃって……」

「俺を心配してくれたの?」

「――うん」

 はにかみながら頷く紫織に、宏樹は「そうか」と言って、そっと髪を撫でる。

 宏樹のこの行為には特に深い意味はない。
 しかし、紫織にとっては違うのは彼も分かっていた。
 それでも昔からの癖になっているため、どうしてもやめることが出来ずにいる。