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 瀬野に連行されて着いて来た場所は、駅ビルの地下にある居酒屋だった。
 そこは全国展開しているチェーン店で、値段も個人で経営している飲み屋よりはリーズナブル。
 店の雰囲気も明るく活気に満ち溢れているので、幅広い年齢層の客が入っている。

 店内に入り、彼らを出迎えてくれた女性店員に案内された場所は、ちょっとした個室のような席だった。

 ふたりは向かい合うように椅子に腰かけると、中生ふたつと軽いつまみを適当に注文した。

「やれやれ、今日も一日疲れたわ!」

 注文を取った女性店員が去ってから、瀬野は用意された温かいおしぼりで顔を拭き出した。

 瀬野とは何度か飲みに来ているので、この光景は何度も目にしているが、それでも引いてしまう。確かにさっぱりして気分は良いかもしれないが、人目も憚らずに顔を拭く行為は、オヤジ以外の何者でもない。

(注意したって、素直に聴くような人じゃないしな)

 宏樹はひっそりと溜め息を吐くと、自らもおしぼりで手を拭いた。
 もちろん、瀬野のように顔を拭くという真似は絶対にしなかったが。

 しばらくして、店員が中生と突き出しを持って現れた。

「お待たせしました、中生です!」

 気持ち良いほど威勢の良いかけ声と共に、各々の前にはビールが並々と注がれたグラスと突き出しの小鉢が置かれる。

「では、ごゆっくりどうぞー!」

 店員は一仕事終わると、そそくさとふたりの前から立ち去った。

 辺りからは、店員を呼ぶ声が絶え間ない。
 今の彼らには、休む暇などないのだろう、と宏樹はふと思った。