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 時計が午後七時を回ろうかとしていた頃、宏樹はようやく仕事を一段落させた。

 課長からの説教に加え、瀬野の質問攻め――といっても未遂に終わったが――のお陰か、燻り続けていたイライラも消えたように感じた。

 しかし、緊張感から解放されたとたん、再び昨晩のことが頭を過ぎってゆく。

(いい加減、気持ちを切り替えないと……)

 そんなことを考えながら、会社の外に出た時だった。

「高沢!」

 日中の質問攻撃の張本人の声が、宏樹を呼び止めた。

 宏樹は、聴こえなかった振りをしてやろうか、と思ったものの、つい、条件反射で立ち止まって振り返ってしまった。

 瀬野は軽やかな足取りで、宏樹の元まで駆け寄って来る。

「お前、俺にちょっと付き合えや」

「は? 付き合うって……?」

「いいからいいから!」

 宏樹の都合も訊かず、瀬野は肩に自らの腕を回してきた。
 その行為からは、お前を絶対に逃がさん、という意思表示がありありと出ている。

 当然ながら、隙あらば逃げたかった宏樹であったが、こうなってしまっては仕方がない。

「――ちょっとだけですよ」

 肩に載せられた腕の重さを感じながら、宏樹はうんざりとばかりに呟いた。