◆◇◆◇◆◇
昨晩の千夜子からの電話の事を引きずっていた宏樹は、いつにも増して仕事への集中力がなくなっていた。
公私混同するなどもっての外だと自分では思っていたので、千夜子に別れを告げられた時も、いつもと変わらず与えられた仕事を黙々とこなしていた。
しかし、今は違った。
自分でも驚くほどに苛立ちが募っている。
そんな状態で仕事をしているものだから、当然ながら、通常よりもミスが多くなる。
「どうしたんだ? 高沢らしくないな」
上司にこってり絞られたあと、耳打ちするように声をかけてきたのは、一年上の先輩――瀬野陽介だった。
宏樹は曖昧に笑みを浮かべ、「すみません」とだけ言って自分のデスクに着いた。
だが、その瀬野のデスクは宏樹の隣だから、彼はここぞとばかりに質問を投げかけてくる。
「お前、ほんとに変だぞ? もしかして恋の悩みか? ん?」
「――違いますよ」
とは答えたものの、瀬野が言ったことは見事に的を射ている。
(まあ、本人はただの当てずっぽうで言っただけだと思うけど)
相談に乗りたい、というよりも、明らかに宏樹の〈悩みごと〉に興味を示している先輩を目の前に、思わず溜め息が出てしまう。
しかも、瀬野には悪気がないのが分かっているから、よけいに始末が悪い。
昨晩の千夜子からの電話の事を引きずっていた宏樹は、いつにも増して仕事への集中力がなくなっていた。
公私混同するなどもっての外だと自分では思っていたので、千夜子に別れを告げられた時も、いつもと変わらず与えられた仕事を黙々とこなしていた。
しかし、今は違った。
自分でも驚くほどに苛立ちが募っている。
そんな状態で仕事をしているものだから、当然ながら、通常よりもミスが多くなる。
「どうしたんだ? 高沢らしくないな」
上司にこってり絞られたあと、耳打ちするように声をかけてきたのは、一年上の先輩――瀬野陽介だった。
宏樹は曖昧に笑みを浮かべ、「すみません」とだけ言って自分のデスクに着いた。
だが、その瀬野のデスクは宏樹の隣だから、彼はここぞとばかりに質問を投げかけてくる。
「お前、ほんとに変だぞ? もしかして恋の悩みか? ん?」
「――違いますよ」
とは答えたものの、瀬野が言ったことは見事に的を射ている。
(まあ、本人はただの当てずっぽうで言っただけだと思うけど)
相談に乗りたい、というよりも、明らかに宏樹の〈悩みごと〉に興味を示している先輩を目の前に、思わず溜め息が出てしまう。
しかも、瀬野には悪気がないのが分かっているから、よけいに始末が悪い。