◆◇◆◇◆◇

 昨日、無理をさせてしまったから、紫織はまた、学校を休んでしまうのではないかと思ったが、ちゃんと登校して来た。
 ただ、何となく顔色があまり良くないように感じる。

「大丈夫?」

 紫織を見るなり、涼香は挨拶代わりに訊ねた。

 紫織は「平気だよ」と苦笑した。

「もう、涼香もお母さんと同じことを言うんだね? ほんとに大丈夫だから心配しないで」

 涼香の目には、どうにも強がっているようにしか映らない。
 いや、本当に本人は大丈夫だと思い込んでいるのかもしれないが。

(いきなり倒れたりしなきゃいいけどねえ)

 そんなことを考えながら紫織を見つめていたら、彼女は怪訝そうに首を傾げながら、「どうしたの?」と訊いてきた。

「え? ああ、別に何でもない」

 紫織が気がかりだから、と言いたかったが、言ったら言ったで今度は『しつこいよ!』と怒られそうな予感がしたので、涼香はそのまま言葉を飲み込んだ。

 そんな涼香に、紫織は「変なの」と呟く。

 涼香は返事をする代わりに肩を竦めた。

 そのうち、始業五分前を知らせるチャイムが学校中に鳴り響いた。

 さすがに今日は、昨日のようなサボりをする気は全くない。

「じゃあ、またあとでね」

 涼香は小さく手を挙げながら言うと、ゆったりとした足取りで自分の席へと戻って行った。