「おはよう」

 中へ入るなり、廊下の冷気とは対照的な暖かさと、母親の挨拶に迎えられた。

「おはよ」

 紫織も母親に挨拶を返すと、定位置にちょこんと正座した。

「あんた、大丈夫なの?」

 心配そうに訊ねてくる母親に、紫織は「うん」と頷く。

「熱は下がったし、だるくもないから」

「ふうん……。また帰って来たとたんに寝込む、なんてやめてちょうだいよ?」

「大丈夫です!」

 紫織がきっぱりと言うと、母親は呆れ気味に苦笑しながら、一度キッチンへと引っ込んだ。

 朝食を持って来てくれるのだろう。
 そう思っていたら、母親は本当に食事を運んできた。

 ただ、そのメニューに、紫織は思わず顔をしかめてしまう。

「――またおかゆ……?」

 うんざりとばかりにぼやく紫織に、母親は「当たり前でしょ」と答えた。

「まだ胃が本調子じゃないんだから、もう少しは我慢しなさい。どうしてもおかゆが嫌だって言うんなら、一日も早く治すことね」

 母親の言うことはもっともである。

 紫織は反論する言葉も見付からず、渋々とスプーンを手に取り、「いただきます」と挨拶してから、おかゆを掬って口に運んだ。
 分かってはいたが、どうにも味気ない。

 別に梅干しも用意されていたので、それを入れて食べてみたが、あまり変わり映えはなかった。

(お母さんの言う通り、とっとと治さないとな……)

 紫織は心底そう思い、口元を歪めながら美味しくないおかゆを黙々と片付けていった。