涼香の気紛れに付き合って授業をサボってしまった日、紫織は再び熱を出してしまった。
 病み上がりで、しかも、上着なしで外に出ていたので無理もない。

 放課後は涼香と一緒に帰りたいと思って待っていようとしたのだが、その涼香に先に帰るように促され、先に失礼したのはかえって正解だった。

 家に着いたとたん、軽い目眩に襲われた。
 だが、母親に、授業を一時間分サボって外に出っ放しだったとはさすがに言えなかった。

 結局、その日は、着替えてからすぐに布団に潜り、額に冷たいタオルを載せながら大人しくしていた。

 母親は何も言わず、その代わり、眉根を寄せながら小さく溜め息を吐いた。
 心配と呆れ、その両方の気持ちの表れとして出た溜め息だったのだろう。

 紫織もそれは重々承知していたので、いたたまれない思いだった。

(もうちょっと、丈夫にならないと……)

 薄暗くなっている部屋の中で天井を見上げながら、紫織は思った。

 不思議なもので、普段ならば全く気にしないようなことでも、いざ病気になると、本当につまらないことで悩んで落ち込み、さらによけいなことまで考えてしまう。

 今、紫織の中では、授業をサボっていた時の涼香との会話を思い返していた。

 表面的には明るく振る舞っていた涼香。
 しかし、紫織の話に耳を傾けていた間の心境は、紫織にも想像が付かないほど複雑なものではなかっただろうか。