「――少し、考えさせてくれないか?」

 やっとの思いで出したのは、答えにもならない答えだった。

 千夜子はそれをどう捉えただろう。少しばかり黙っていたが、やがて、『分かった』と返ってきた。

『確かに、いきなりだもんね。――ごめんね』

「いや……」

 宏樹からはもう、これ以上の言葉は出てこなかった。

『それじゃあ、考えるだけでも考えておいて。――勝手なことを言ってるのは分かってるけど……、やっぱり、私にはコウが必要みたいだから……』

 千夜子はそう言うと、先に電話を切ってしまった。

 宏樹は電話が切れてからも、受話器を耳に当てたまま、あらぬ方向をぼんやりと眺めていた。

 千夜子とのことはけじめを着けるつもりでいたのに、何故、今頃になってあんなことを言ってきたのか。

 落ち着きを取り戻すにつれ、宏樹の中で言いようのない苛立ちが湧き上がるのを感じた。

 結局、自分はいいように利用されているだけではないか。
 考えれば考えるほど、千夜子への憎しみが増えてゆく。

「ざけんな!」

 宏樹は奥歯を強く噛み締めながら、子機をベッドの上に投げ飛ばした。
 子機は、ベッドが接している壁にわずかに激突した。

 宏樹がここまで感情的になったのは、少なくとも、朋也が生まれてからはなかっただろう。

「くそったれ!」

 やり場のない怒りをぶつけながら、宏樹は精神状態がおかしくなりそうな感覚を覚えた。

 千夜子に、今の気持ちをありのまま伝えられたらどんなに楽だったろうとも思う。
 しかし、それもまた、宏樹が望んでいたことではない。

(もう少し、冷静にならないと……)

 宏樹はモヤモヤした気持ちを抱えつつ、自分に言い聞かせた。

[第六話-End]