「で、そのナカガワさん、何か言ってた?」

「それがねえ、あんたがまだ帰ってないことを伝えたら、『そうですか』ってだけ言って切られちゃったのよ」

 母親はそこまで言うと、宏樹をまじまじと見つめてきた。

「ねえ、そのナカガワさんって、もしかしてあんたの彼女?」

「そんなんじゃないよ」

 宏樹は微苦笑を浮かべながら答えた。

「ほんとに? 私の勘じゃ、絶対友達以上の関係だって読んだんだけどねえ」

「深読みし過ぎだって。ほんとにただの高校の時の同級生。それだけだ」

「ふうん……」

 母親はなおも疑っている様子だった。
 父親と朋也は鈍いのに、母親だけは変に鋭いところがあるので非常に困る。
 さすがの宏樹も、ボロを出しそうになってしまったほどだ。

「母さん」

 その時、黙ってスナック菓子を食べていた朋也が、母親に向かって言った。

「あんまりあれこれ詮索するのも良くねえんじゃねえの? それに、兄貴は『高校の時の同級生だ』っつってんだしさ。それでいいじゃん」

 面倒臭そうな口調で言ってはいるが、どうやら、困惑しているであろう兄に助け船を出してくれたようだ。

 母親は不満そうにしていたが、朋也の言うことももっともだと納得してくれたのか、さらによけいなことを訊かれずに済んだ。

 宏樹は朋也を一瞥した。

 朋也は相変わらず、憮然とした表情で菓子をポリポリ噛み締めている。
 もちろん、それは単なるポーズであることは宏樹もしっかり理解していた。