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 着替え終えてから、宏樹は再びリビングへと戻った。

 すると、母親はすでに、宏樹の定位置の前へ、よそったばかりのご飯と味噌汁、メインのおかずである揚げ物の盛り合わせを用意していた。

「フライ冷めちゃってるけど、チンした方がいい?」

 母親が訊ねてきたが、宏樹は「いや」と小さく首を振った。

「このまんまでいいよ」

 そう答え、手近に置かれたソースに手を伸ばして揚げものにかける。

 ほどよくソースが染み込んだのを見ると、宏樹はその中のアジフライを箸で挟み、そのまま齧り付いた。
 母親の言う通り、冷めてはいるが決して不味くはない。

 宏樹はもう一口分口の中に入れると、今度は白飯と一緒に咀嚼した。

「あ、そうそう」

 先に食事を終え、お茶を淹れていた母親が、不意に想い出したように口を開いた。

「七時過ぎ頃だったかしら? 宏樹、あんたに電話があったのよ」

「――電話?」

 宏樹は怪訝に思いながら、動かしていた箸を止めた。

「誰から?」

 そう訊ねながら、まさか紫織が、と思った。
 しかし、紫織ならばいちいち電話をせず、直接家に赴いて来るだろう。
 そんなことを考えていたら、母親から予想外の答えが返ってきた。

「確か、ナカガワさん、と言ったかしら。女性の声だったわよ」


 ナカガワ――


 その苗字を耳にした途端、宏樹の周りを取り巻く空気が凍ったような感覚に襲われた。
 だが、宏樹は家族に動揺を気取られぬようにと、努めて冷静を装った。