朋也は眉根を寄せながら、「いや」と続けた。

「何となく元気がなさそうに見えたから……。もしかして、具合でも悪いんじゃねえかな、って」

 朋也の言葉に、涼香は目を瞠った。
 まさか、自分の気持ちに勘付かれたか。
 そう思ったが、どうやら違っていたというのが、朋也の次の台詞で明らかになった。

「山辺さんって、決して人当たりは悪くなさそうだけど、どこか他人を近寄らせない雰囲気があるっつうか……。まあ、俺はクラスが違うから何とも言えないけどさ。
 けど、何となく、紫織といる時だけは違うんだよね。――現に今もちょっと怖い……、あ、わりい! つい口が……」

 朋也は言いかけて、気まずそうに頭をポリポリと掻き出した。


『今もちょっと怖い』


 その台詞に涼香はショックを受けるよりも、やっぱりそうか、と冷静に受け止めた。
 素直な紫織に比べると、涼香は一癖も二癖もある。
 それは涼香自身が一番自覚していた。

「――気にしなくていいよ、高沢君」

 笑いを含みながら、涼香は言った。

「高沢君の言ってることは当たってるからね。紫織は……、一緒にいると安心出来る存在だから。本音を言えば、人付き合いなんてめんどくさくて嫌いだけど、あの子に限っては、そうゆうのはいっさいない。
 これから、色んなことがあるかもしれないけど……、それでも、あの子とはずっと一緒にいたい、って思ってる」

 言い終えてから、涼香はハッと我に返った。

 お互い、さして親しい間柄ではないと言うのに、何故、こんなことを朋也に言ってしまったのか。

 朋也を見ると、彼もまた、ポカンとして涼香を凝視している。

 ふたりの間に、何とも言いがたい沈黙が流れた。

 静まり返った教室からは、何の音も聴こえてこない。
 ただ、耳鳴りだけが鬱陶しいほどに響いている。