「――高沢と、何かあった?」

 涼香が訊ねてきた。

 どうして、と訊き返そうとすると、涼香は苦笑しながら、「ここに出てる」といつものように紫織の頬を突いてきた。

「いつも言ってるじゃない。紫織は思ったことがすぐに顔に出る、ってね」

「――そうだったね」

 紫織も釣られて微苦笑を浮かべた。
 もしかしたら、涼香を傷付けてしまうかもしれない。
 だからと言って、隠しごとを出来るはずもないと思い、紫織は二日前の出来事を話した。

 話している間、涼香は神妙な顔をしつつ、時おり、小さく頷いていた。

「――そっか」

 話し終えると、涼香はそう呟いた。

 紫織は不安を感じつつ、涼香を見つめる。

「ちょっと! そんな目で見ないでってば!」

 いつもの調子で涼香が口を開いた。

「私はね、別に高沢とどうにかなりたいなんてちっとも考えちゃいないんだから! それ以前に、高沢には紫織以外は見えちゃいないでしょ? 私なんかが付け入る隙なんて全然ないんだしさ」

「――涼香……」

「ああもう! だからその辛気臭い顔はやめな! こっちまで気分が萎えちゃうわ!」

 そう言うと、涼香は紫織を真っ直ぐに見据えた。

「紫織は、紫織の思うがままにすればいいんだよ。誰にも遠慮なんていらない。もちろん私にもね。
 私はさ、自分の気持ちに素直な紫織が一番好きなんだよ。そういうとこ、私には全然ないからね。凄く羨ましいと思ってる」

 涼香の言葉は、紫織にとって驚くことばかりであった。
 紫織はむしろ、同性から見ても、綺麗で小ざっぱりした性格の涼香を羨ましく思っていたほどなのだ。
 もちろん、そんなことは一度たりとも告げたことはない。
 悔しい、という思いもどこかにあったのかもしれない。

「――私、そんなに出来た人間じゃないよ」

 紫織が言うと、「馬鹿じゃないの」と一笑されてしまった。

「自分のことなんてね、案外、自分じゃ分かんないもんなんだって! 紫織のいいトコは、紫織よりも絶対に私が分かってるんだから!」

 涼香の言葉に、紫織はなるほどと納得した。