「――私も、よく分かんないんだよ」

 涼香がポツリと呟いた。

 多分、この先に続きがあるはずだ。
 紫織はそう思い、涼香の口から告げられるのを辛抱強く待った。

「最初はもちろん、何とも思ってなかった。クラスは違うし、話したことがあったとしても、本当に二言三言程度。――それなのに、しょっちゅうあんたの元を訪れて来るのを見かけるようになってからは……、何故か、その姿を追い続けるようになってて……」

 そこまで言って、涼香は口を噤んだ。

 しかし、紫織はそこで初めて気付いた。
 涼香がずっと抱え続けていた想いを。

「――そうだったんだね……」

 名前を出すのは憚られるだろうと思い、紫織はそれだけ言った。

 涼香はわずかに目を瞠り、だが、すぐに口元に笑みを浮かべた。

「分かっちゃった……?」

「――うん」

「そっか……」

 涼香は空いている方の手で自らのショートヘアを掻き上げると、そのまま冬空を仰いだ。

「自分でも馬鹿だって分かってる。〈一目惚れ〉なんて絶対にあり得ない、ってずっと思ってたんだからね。それなのに、抜け出せなくなるほどどっぷり浸かってしまっちゃってさ……。紫織も、アホだと思うでしょ?」

「そんなことないよ」

 紫織は大きく首を振った。

「私は、人を好きになることが悪いなんて全然思わない。一目惚れだろうと何だろうと、誰かを想う気持ちはみんな一緒なんだから。――私だって、朋也だって……」

 言いかけて、紫織はハッと口を閉ざした。

 二日前、朋也に告白され、抱き締められたことが頭の中を掠めてゆく。