「減らず口を叩けるのも今だけだと思うぞ!」

 紫織のすぐ横に宏樹が現れ、今度は彼が雪玉を投げる。

 それは紫織のとは比べ物にならないほどのスピードで飛んで行き、見事、朋也の背中にヒットした。

「なんで兄ちゃんが投げんだよっ? きったねえぞっ!」

「俺も紫織も別にルール違反なんてしてないぞ? お前にやられたから、やり返してやっただけだ!」

「――クッソオ!」

 朋也は立ち止まってその場にしゃがみ込むと、すぐ近くの雪を掴んだ。
 また、雪玉を作っているらしい。

(懲りないなあ……)

 そう思いつつ、紫織も宏樹も反撃用の雪玉をこさえている。

 気が付くと、朋也のペースにすっかりはまっていた。
 あんなに嫌だと思っていたのに、雪玉を投げ合っているうちに楽しくなり、身体も汗ばむほどになっていた。

 雪合戦は、しばらく続いた。

「――まさか、ここまで雪と戯れることになるとは……」

 紫織の隣で、宏樹がぽつりと呟く。

「そうだね。――結局、宏樹君も私も、朋也には敵わないってことなのかな?」

 紫織が訊ねると、宏樹は「そうだな」と目尻を下げながら肩を竦めた。

[プロローグ-End]